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ISASコラム

宇宙・夢・人

国際協力で宇宙開発を推進したい

(ISASニュース 2009年8月 No.341掲載)
 
科学推進部 研究推進室 専門員 大野友史
おおの・ともふみ。1970年、兵庫県生まれ。1993年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、宇宙開発事業団入社。契約・予算・法務・国際協力(パリ駐在員)などの業務に携わり、2006年4月から現職。
Q: 宇宙開発事業団(NASDA)を志望した動機は?
小さいころから宇宙に興味がありました。あこがれの宇宙を仕事として考えるようになったのは就職活動のときです。NASDAで事務系の募集をしていることを知り、OB訪問をしました。その先輩は入社2〜3年目でしたが、国際宇宙ステーションの担当で、海外の宇宙機関との調整を任されていました。世界の人たちと協力して宇宙という人類のフロンティアを開発する仕事にとても魅力を感じました。NASDAに入り、仕事でつらいときでも、宇宙開発に貢献しているという思いが心の支えでした。それは今でも変わりません。
Q: つらかった思い出は?
例えば、入社3年目に予算の部署で科学技術庁の対応窓口になりました。資料作成などの依頼が科学技術庁から来るのが、たいてい夜中の12時。それまで待機していなければなりません。拘束時間が長く、もっと効率的に仕事がしたいと思いました。
Q: 国際協力も担当されたそうですね。
海外勤務の希望を人事に出していて、10年たってやっとパリ駐在員事務所に行くことができました。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が進めている衛星の開発状況など、さまざまな情報を収集することが任務の一つです。相手の情報を得るには、こちら側の情報を提供する必要があります。しかし、ESAは日本の宇宙開発に、こちらが興味を持っているほどは興味がないんです。ギブ・アンド・テイクが成り立たない。相手が欲しがっていないこちら側の情報まで無理矢理に説明して相手の情報を得るなど、苦労しました。
Q: ヨーロッパと日本で仕事の進め方に違いはありますか。
ヨーロッパの人たちはプライベートをとても大切にしていて、業務時間内に効率的に仕事をしようという意識が高いですね。夜7時になるとオフィスには誰もいません。もちろん夜中まで待機なんてあり得えない!(笑)。パリでの仕事は、最初は苦労しましたが、だんだん楽しくなってきて、もっと長くいたかったですね。しかし3年で日本に戻され、JAXAとして統合された宇宙研へ異動になりました。
Q: 宇宙研の印象は?
学問の自由の気風を感じます。立場に関係なく意見を出し合い、その意見が正しいと思われれば、尊重してくれます。私は今、宇宙研のさまざまなプロジェクトの予算を取りまとめたり、予算獲得のための資料をつくる仕事などをしています。宇宙研がJAXAという大きな組織に統合されたことでメリットもあると思いますが、統合前に比べて宇宙研単独で物事を決められないことが多くなりました。また、大きな組織に統合されたことで失敗が許されないという風潮になり、難しいプロジェクトへのチャレンジがしにくくなっているようです。宇宙研の特色をもっと生かせる組織設計が必要です。
Q: 今後、どのような仕事をしていきたいですか。
海外の情報を集めて日本に紹介し、新しい国際プロジェクトの立ち上げを支援する仕事がしてみたいですね。研究者や技術者は個々の分野では国際的な人脈や情報網を持っていますが、宇宙分野全体を見渡せる人はあまりいません。事務の立場から新たな視点で国際プロジェクトを提案できると思います。JAXAでは現在、アジア諸国との連携に力を入れています。アジア諸国の宇宙機関を回って情報や要望を集め、新プロジェクトを提案できたら面白いですね。宇宙開発の先駆者であるロシアとも、もっとさまざまな協力ができる可能性があると思います。
Q: 興味があるプロジェクトは?
やはり有人探査ですね。しかし日本では「なぜ有人か?」とすぐに問われます。技術力向上や科学的発見、産業界への波及効果など理由付けはできます。しかし、特にアメリカが有人探査を進めている根底には、フロンティア精神があります。国民にフロンティア精神が根付いていて有人探査を支持しているのです。ヨーロッパにもアメリカほどではありませんが、その精神があります。しかし日本では欧米ほどにはフロンティア精神が根付いていないため、宇宙開発でも実益が重視されます。そこを乗り越え、多くの人たちの支持を得て有人探査を推進していけたらいいですね。