宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 宇宙・夢・人 > 第57回:推進系=ものづくり+体育会?

ISASコラム

宇宙・夢・人

推進系=ものづくり+体育会?

(ISASニュース 2009年5月 No.338掲載)
 
推進系グループ 開発員 中塚潤一
なかつか・じゅんいち。1980年、大阪府生まれ。工学修士。2006年、慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻修士課程修了。同年、宇宙科学研究本部技術開発部推進系技術開発グループ開発員。2008年より現職。宇宙科学技術センター基盤技術グループ併任。衛星推進系の研究開発を行うとともに、PLANET-Cをはじめとする衛星プロジェクトに参加し、衛星の推進系の開発を担当。
Q: 2010年夏に打上げ予定の金星探査機PLANET-Cの推進系を担当されているそうですね。
今回、PLANET-Cのメインエンジンに世界で初めて搭載する予定のセラミックス製燃焼器の開発などを行ってきました。
Q: どのような利点があるのですか。
エンジンの燃焼ガスは約2000℃という高温になります。それを従来は金属製燃焼器の耐熱温度をぎりぎりで下回るように工夫していました。セラミックスならば、金属よりも高い耐熱温度を達成できます。高い温度で燃料を燃やすことにより、将来、エンジンの燃費を向上できる可能性があります。また、従来の燃焼器の金属材料は海外製でした。それを買ってきて加工し、最後のコーティングも海外メーカーに依頼していました。肝心な技術がブラックボックスだったのです。その燃焼器を、日本のお家芸であるセラミックス技術で国産化したのです。国産化により、トラブルがあったときに情報をすべて出し合いながら原因を探ったり、改良していくことができる意義はとても大きいと思います。
Q: もともと推進系がご専門なのですか。
いいえ、大学ではロボット工学を学びました。3年前にJAXAに入り宇宙研の推進系に配属されたときには、「推進系って、何?」という感じでした。しかも、そのとき太陽観測衛星「ひので」の総合試験で、推進系にトラブルが発生していました。
Q: いきなりピンチだったのですね。
そうです。ただし、ピンチのときほど学ぶことが多いものです。トラブルがあるとシステムを一から見直すしかありません。推進系の開発の経緯を、開発した人たちから直接、聞くことができました。
 セラミックスの知識もゼロでした。しかし宇宙研には材料や推進系の専門家がいて、その知識やアイデアを惜しげもなくすべて伝えてくれます。セラミックスの技術についても、自分なりに理解して考えることができるようになりました。うまくいかずに悩んでいて、「私はこう考えますがどうですか?」と聞くと、みんなで一緒になって考えてくれます。こういうのが、本当の勉強なんだと実感しています。
Q: 理科や宇宙に興味を持ったきっかけは?
父が化学系の出身で、私が小学生のころに家で簡単な実験をしてくれたり、理科に関することで質問するとすぐに答えてくれました。それで“理系はかっこいい”というイメージを持ったのです。自動車の模型を組み立てて速さを競う大会に出たりして、ものづくりが好きになりました。ただ し、中学生のときから私が最も熱中したのはテニスです。大学では体育会のテニス部に入り、練習に明け暮れる毎日でした。
 宇宙に関心を持つようになったのは、就職活動のときなんです。まだ面白そうなことがたくさんありそうな宇宙分野だと、面白いものづくりができそうだと思いました。そして、体育会とものづくりを組み合わせたような職場が宇宙研にありました。私は本当に恵まれています。
Q: 雰囲気が似ているのですか。
私たちのテニス部では、人が頑張ったことや考えたアイデアを否定せずに評価しました。テニスは個人競技なので、個人を尊重しながらみんなで強くなろうとします。宇宙研でも、個人を尊重しながら、みんなでプロジェクトの成功を目指しています。宇宙研に入って1年目のクリスマスに、体育会のノリで、サンタの帽子をかぶったら、「もっと工夫しろ」と言われました。そこで翌年は全身をサンタの格好にしました。笑いを取ろうとしているのだから、笑ってやろうという雰囲気も似ていますね。ただしこんな場合、テニス部ではみんながサンタの格好をしますが、さすがに宇宙研ではまねをする人はいません。
Q: 今後の目標は?
宇宙研の推進系グループに骨を埋めたいですね。難しい衛星プロジェクトでも「推進系は彼に頼めば大丈夫だ」と言ってもらえるように、早くなりたいと思います。私は今、次世代赤外線天文衛星SPICAおよび次期磁気圏観測計画SCOPEの検討にも参加させてもらっています。SCOPEは複数の衛星による編隊飛行で磁気圏の観測を行うもので、推進系の高精度な制御が要求されるプロジェクトです。まだ誰もやったことがないこと、まだ道筋が見えていないところを歩くのは、とても楽しいですね。