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ISASコラム

宇宙・夢・人

「はやぶさ」生還せよ

(ISASニュース 2009年2月 No.335掲載)
 
宇宙情報・エネルギー工学研究系 准教授 吉川 真
よしかわ・まこと。1962年,栃木県生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修了。日本学術振興会特別研究員を経て,1991年から通信総合研究所。1998年,宇宙科学研究所。専門は天体力学。太陽系小天体の軌道解析,人工衛星や惑星探査機の軌道決定,スペースガードの研究などを行う。
Q: 小惑星探査機「はやぶさ」の現状を教えてください。
現在「はやぶさ」は、2010年6月の地球帰還を目指して運用されています。地球に戻ってくると、小惑星イトカワの試料が入っていると期待されているカプセルを切り離し、大気圏に再突入させます。カプセルをオーストラリアの砂漠に正確に落下させるための軌道計算や、回収リハーサルの準備など、「はやぶさ」帰還に向けた作業がすでに本格的に始まっています。
大気圏再突入はもともと技術的なハードルが高いのですが、「はやぶさ」の場合、あちこちに不具合を抱えているので難易度はさらに高くなります。現在の「はやぶさ」は、軌道制御に使う化学エンジンがまったく使えない上に、姿勢制御のためのリアクションホイールも3個のうち2個が壊れています。1個のリアクションホイールとイオンエンジンだけで姿勢と軌道の制御をするのは、とても難しい。それでも私たちは、最善の方法を考え、準備を整えています。
Q: 吉川 准教授は「はやぶさ」の理学研究者グループの代表者、プロジェクトサイエンティストであるとともに、軌道決定も担当されています。軌道決定とは?
軌道決定とは、探査機が今どこにいるかを決めることです。軌道にかかわる仕事は2つあります。地球から目的地までのルートや制御方法を考えるのが軌道設計グループです。私たち軌道決定グループは、探査機が予定の位置からどれだけずれているかを計算し、その結果を軌道設計グループに渡します。すると、軌道設計グループは、計画された軌道に戻す、あるいは最も良い軌道に変更するために、探査機をどう動かしたらいいかを計算します。設計や制御に比べると、軌道決定は地味です。しかも、探査機の位置が決まるのは当たり前だと思われていて、決まらないと怒られます(笑)。
Q: 「はやぶさ」の軌道決定で苦労した点は?
「はやぶさ」はイオンエンジンを初めて往復探査に使った探査機です。イオンエンジンを使っている状態で軌道決定を行う予定でしたが、推力が想定以上に変動するため誤差が大きくなり、うまく軌道決定ができませんでした。この問題は、軌道決定をするときにはイオンエンジンを止めてもらうことでクリアしました。イオンエンジンを使用したままの軌道決定は、今後の課題です。
Q: 次の小惑星探査計画は?
「はやぶさ」と似た機体を使いイトカワとは別のタイプの小惑星を探査する「はやぶさ2」と、ヨーロッパと共同でより遠方の小天体からのサンプルリターンを目指す「マルコポーロ」を検討しています。探査機が接近して探査を行った小天体は、まだ10個ほどしかありません。一度も探査されていないタイプの小惑星もあります。もっとたくさんの小惑星を探査したいと思っています。
Q: 専門は天体力学ですね。
天体力学を選んだのは、コンピュータで計算するのが好きだったから。太陽系の起源を知りたくて、太陽系の小天体の軌道進化を研究していました。その延長で、地球の近くまで来る小天体を発見し、その地球衝突の可能性について調べるスペースガードにもかかわっています。「はやぶさ」の成果は、スペースガード研究にも役立っているんです。実際に衝突を心配すべき天体は、イトカワのような直径500mくらいの小惑星です。そういう小惑星を至近距離で探査したのは初めてです。「はやぶさ」によって明らかになったことを使い、衝突回避の方法を考えるなど研究が進んでいます。
Q: どういう子どもでしたか。
昆虫が好きで、宇宙に興味を持ったのは小学生くらいからです。望遠鏡を買ってもらってよく見ていました。しかし高校に進むと、山岳部に入って山に登ってばかりいました。おかげで、体力だけには自信があります。大学は理科系に入ったものの、最初から天文をやりたいと思っていたわけではなく、文化人類学に進もうかと考えたこともありました。
Q: では、仕事以外でも海外へよく行かれるのですか。
皆既日食を見に行きます。しかも、メジャーでない場所を選ぶんです。マダガスカルやパナマ、中国の新疆ウイグル自治区に行きました。現地の文化、生活に触れることができると楽しいですね。
皆既日食の写真や映像はたくさんありますが、目で見た色や現場の雰囲気を再現できていません。あの感動だけはその場にいないと分からない。皆既になると、惑星も見えてきます。「ここは太陽系なんだ」と思える。皆既日食を一度見るとやみつきになるといいますが、本当ですよ。2009年7月、日本周辺で皆既日食が見られます。2010年はイースター島。ぜひ行きたいですね。