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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙へ毎日飛ばしたい

(ISASニュース 2008年12月 No.333掲載)
 
宇宙航行システム研究系 助教 野中 聡
のなか・さとし。1971年、東京都生まれ。工学博士。2000年、東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。同年、宇宙科学研究所システム研究系助手。2007年より現職。現在は再使用ロケット実験機、再使用観測ロケット、次期固体ロケット、観測ロケットなどの研究開発や運用に携わっている。
Q: 能代多目的実験場への長期出張直前とのことですが、今回の目的は?
再使用ロケット実験機(RVT)の地上燃焼試験で、今回はターボポンプ式のエンジンを機体に組み込んで燃焼させます。これまでに飛行したRVTは、燃料をガスの圧力で押し出してエンジンに送っていました。より本格的な推進システムとして大型の液体ロケットでも使われているターボポンプ式エンジンを繰り返し運用してみて、再使用できるロケットの実現に向けてどのような課題があるのかを知ることが目的です。私はエンジン班の一員として、現場で作業をしています。どうすれば効率よく安全にロケットの運用をできるのだろうか。RVTの実験は、そういうことを実際に現場で勉強することができる貴重な場でもあります。
Q: RVTは1999年と2001年、2003年に飛行実験を行っています。
私にとっての初めての飛行実験は2001年でした。実験が始まると、私たちは小さな異常も見逃さないように、担当する機器のモニターを見つめます。RVTが飛ぶ姿を直接見ることはできないのですが、聞こえてくる音やモニターの数値から、「今、飛んでいるんだ」と感じることができます。無事に着陸したときは、とても感動しました。
 2003年の飛行実験では、合計3回の飛行に成功しました。実験期間中には、どのような飛ばし方をするか、みんなで徹底的に議論しながら進めます。私の担当でもある空力に関して飛ばせるとも飛ばせないとも断言することができなかった課題があり、風洞実験の段階でもっと明らかにできていれば、と悔しい思いをしたこともありました。  前回の飛行実験から5年。またRVTを飛ばしたいですね。
Q: どのような再使用ロケットを目指しているのですか。
まずは、高度100km以上まで飛んで帰ってくる再使用観測ロケットです。現在の観測ロケットは使い捨てなので、打上げのたびに新しいロケットをつくらなければなりません。海に落下した装置を回収するのも大変です。私たちが考えている再使用ロケットなら、ヘリコプターのように空中でホバリングして観測・試料採取したり、機体が打ち上げた場所に帰ってくるので装置の回収も簡単にできます。「こんなロケットがあるよ」と実際に飛ばしてみせたら、さまざまな実験のアイデアが出てくると期待しています。
 再使用ロケットは、効率よく安全に飛ばすことが重要です。目標は24時間に1回打ち上げること。イメージとしては航空機ですよね。そんなロケットがつくれれば、将来は宇宙に大きな構造物を建設したり、宇宙観光旅行が可能になったりと、いろいろな世界が広がることでしょう。
Q: 最初にRVTを見たときの印象は?
おもちゃみたい。これがほんとに飛ぶの? でも、大型ロケットと同じシステムがすべて、コンパクトに詰まっている。面白そうだなと思いました。それに、実験に参加しているみんながとても楽しそうなのです。能代の実験には40人くらいが参加し、約1ヶ月間、朝から晩まで一つの目標に向かってみんなで頑張っています。一人ひとりがプロ。自分が何をすべきかを自覚していますから、細かい指示がなくても、みんな一斉に動きだす。それは見事です。
Q: 子どものころから宇宙に興味があったのですか。
中学生のときにハレー彗星の回帰があり、ねだって望遠鏡を買ってもらいました。毎日のように望遠鏡をのぞき、写真も撮りました。それが宇宙へとつながる最初の出来事です。
Q: 大学の専攻は理学系ではなく、航空宇宙工学ですね。
初めは自然や天体への興味が強かったのですが、次第に飛行機やロケットなど飛ぶものに興味を持つようになり、それを自分で触ってみたい、つくってみたいと思ったのです。旅客機の整備士の道に進むことも考えました。大学院では極超音速流れの研究をしていました。音速の10倍を超える速度で空気中に模型を打ち込んで写真を撮り、模型のまわりにできる衝撃波を可視化するというものです。
Q: 趣味は?
中学から大学院までずっと陸上をやっていましたが、最近は走っていないですね。今の趣味は、水中で小さい生き物の写真を撮ることです。5年ほど前から出張のない週末は海に通っています。周囲からあきれられるほどです。
Q: 能代の冬は寒いそうですね。
はい、それはもう。実験場は海岸にあるので、日本海からの冷たい風雪が直接吹き付けます。私は、能代や角田、内之浦などへ、毎年100日ほど出張に出ています。普通、長期の出張では宿のおいしい食事のおかげで太って帰ってくるのですが、冬の能代だけは別。今回もきっとやせますね。でも、老若男女、JAXA、メーカー問わず、RVTチームとして現場で声を掛け合いながらみんなで仕事をするのは、寒さを忘れるほどとても楽しいです。