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ISASコラム

宇宙・夢・人

「なるほど!」と言い続けたい

(ISASニュース 2008年5月 No.326掲載)
 
宇宙プラズマ研究系 教授 藤本 正樹
ふじもと・まさき。
理学博士。1964年、大阪府生まれ。専門は宇宙プラズマ物理学、惑星系形成論。1992年東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻修了、名古屋大学理学部助手、1996年東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻助教授、2006年より現職。現在は、水星探査計画BepiColombo、地球磁気圏探査計画Cross-Scale、木星探査計画などを進めている。
Q: 明日から海外出張と伺いました。
今回はフランスとオランダです。水星の磁場を調べに行くBepiColombo計画の打ち合わせなどで海外出張が多く、昨年と一昨年は20回近くありました。それだけ行っていると、バーゲンシーズンにも当たるでしょう。服の衝動買いが止まりませんよ。
Q: 本誌2006年7月号に「オペラ座の怪物くん」という文章を書かれています。オペラが好きなのですか。
オペラはつまらなそうだと敬遠していたのですが、奥さんが音大で歌を学び始めてから興味を持つようになりました。今では、海外出張先で時間があれば、見に行くようにしています。
みんなでぎゃあぎゃあ議論した後、オペラが流れる研究室で一人静かにアイデアを練る時間も好きです。いいアイデアを一番に出せるかは、絶対に負けられない勝負。オペラを聴きながら、頭の中がかゆくなるほど必死に、プラズマ粒子の気持ちになって考えます。
Q: 専門は宇宙プラズマ物理学ですね。
宇宙空間は電離したガス、プラズマに満ちています。地球のまわりの磁気圏でも、オーロラなどプラズマに起因するダイナミックな現象が起きています。プラズマをきちんと理解するためには、その場所に衛星を飛ばして精密なデータを取ることが必要です。日本のプラズマ物理学は、1992年に打ち上げられた「GEOTAIL」によって世界の最先端に躍り出ました。大学院時代はシミュレーションをやっていましたが、「GEOTAIL」が打ち上がり、このデータなら使えると思ってデータ解析を始めたのです。
「GEOTAIL」は少し古くなりましたが、まだ現役。性能は高く、欧米が最近打ち上げた衛星と組み合わせた国際共同研究が盛んです。その実績があり、信頼関係ができたからこそ、ヨーロッパと水星磁気圏探査計画が進んでいるのです。
Q: 水星磁気圏探査に何を期待していますか。
小さい惑星はすぐに冷えて固まってしまうので、磁場はつくられないはず。水星に磁場があること自体、不思議なのです。しかも、大気がない水星では、磁場が地表に接していて、プラズマが地表に直接当たります。そこでは、地球周辺よりはるかにダイナミックな現象が起きているでしょう。いろいろ予想されてはいますが、本当は何が起きているのかを知りたい。プラズマは人間の常識がまったく通用しません。絶対に裏切られる。どう裏切られるのか、それが楽しみです。
Q: 地球磁気圏探査の将来計画は?
最近、欧米は4機編隊からなる衛星を打ち上げています。磁気圏では、さまざまなスケールの現象が密接に絡み合って起きています。衝撃波、境界層での乱流、磁気リコネクションといったプラズマ物理における問題を理解するには、異なるスケールを同時に観測しなければなりません。そのために、複数の衛星による編隊観測は必須です。私たちはヨーロッパと共同で、2017年の打上げを目指し、12機編隊のCross-Scale計画を進めています。その次は、木星に行きます。
Q: なぜこの道に?
高校3年生のときに見た、探査機「ボイジャー」のテレビ番組をよく覚えています。木星のフライバイの解説を生放送で延々3時間。今ではあり得ないでしょう。でも、よく覚えているということは、気付かないうちにその番組に影響を受けていたのかもしれません。
大学では宇宙工学に興味を持っていたものの、図学の単位を落としてあきらめました。その後、興味は地震へ、しばらくすると電磁気学が面白い、となって。フィールドはいろいろ変わりましたが、貫いていることが一つあるとすれば、普通ではないことをしたい、ということですね。
Q: これからの夢を聞かせてください。
観測の研究者は、誰も見たことがない現象を発見したいと思うでしょう。でも私は、物事の仕組みが分かることに興味があります。「なるほど!」と言いたいのです。
私は、幼稚園をロンドンで、中学をニューヨークで過ごしました。小学2年生で日本に戻ってきたとき、九九の問題をみんながすらすら解けることがとても不思議でした。そのころから、“普通であること”を疑う精神が身に付いたようです。何が当たり前か分からないので、仕組みをきちんと理解しておきたいと思うようになりました。
でも、「そうだったんだ」では終わりたくはない。「なるほど!でも、こうかもしれない」というのを繰り返していたいと思っています。