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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙を自由に行き来したい!

(ISASニュース 2008年1月 No.322掲載)
 
宇宙航行システム研究系 助教 成尾芳博
なるお・よしひろ。
1953年、長野県生まれ。1977年、日本大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。工学修士。東京大学宇宙航空研究所を経て、1981年、宇宙科学研究所衛星応用工学研究系助手。2007年より現職。液体水素/液体酸素ロケットエンジン、空気吸い込み式エンジン、再使用型宇宙輸送システム、太陽発電衛星システムの基礎開発研究に従事してきた。
Q: 再使用型ロケット実験機(RVT)の開発を続けているそうですね。なぜ再使用型が必要なのですか。
いま地球では、環境汚染や温暖化が大きな問題となっています。宇宙から地球を助けるようなことが必要な時期に来ていると思います。例えば、私たちは宇宙で太陽光発電を行い、その電力を地球に送る、太陽発電衛星の研究を続けてきました。ただし、そのような衛星をつくるには、何万トンもの資材を宇宙に運ぶ必要があります。現在、1kgの資材を地球周回軌道上に打ち上げるには、約100万円かかります。これを少なくとも2けた下げなければ、太陽発電衛星は経済的に成り立ちません。もっと低コストで地球と宇宙を自由に行き来できるようなロケットがないと、宇宙から地球を助けることはできないのです。そこで私たちは、飛行機のように、毎日、繰り返し運用できる再使用型ロケットの開発研究を進めています。
Q: 子どものころから、ロケットに興味があったのですか。
小学校1年生のとき、かわいがっていたネコが死んだりして、死というものが怖くなり、不老不死の薬をつくるお医者さんになりたいと思いました。しかし、無限の時を過ごせる肉体はないことを知り、いまを精いっぱい生きたい、そして、社会の繁栄を支えるために、宇宙と地球を自由に行き来できるロケットをつくる科学者になりたいと思うようになりました。手塚治虫さんの影響が大きかったですね。『火の鳥』や『鉄腕アトム』に描かれていた未来社会にあこがれたのです。
Q: 子どものころからの夢を実現されたのですね。
とても幸運ですね。宇宙研では、2007年に亡くなられた長友信人先生のもとで長年、研究を進めました。1970年代に長友先生は、液体水素を燃料とするロケットエンジンの燃焼試験に日本で初めて成功しました。しかし、そのエンジンが実際にロケットに載って飛ぶことはありませんでした。飛ばないエンジンほど、開発者にとってつらいものはありません。RVTは、その流れをくむエンジンを搭載しています。1999年に、RVTの1号機が数mですが初めて宙に浮いたときには、感激しましたね。あんなことは最初で最後でしょうが、実験班が私を胴上げしてくれました。
燃焼試験や打上げ実験のときのカウントダウンでは、心配でいつも胃が痛みます。1回の実験期間に、固体燃料ロケットではカウントダウンは1回だけですが、液体燃料は条件を変えて5〜6回行います。同じロケットの開発でも、私のように液体燃料に携わってきた人は、数倍、ストレスがたまっているでしょうね。ただし、実験が成功した後、能代多目的実験場のある海岸で、日本海へ沈む夕日を見るのは、最高の気分です。
Q: 能代などへの出張も多いそうですね。
いまは、年間延べ60日ぐらいと少なくなりましたが、一番多かった年には200日以上出張していました。それが、ちょうど結婚した年だったんです!“いつも、どこでも一生懸命”が私のモットーなので、家に帰ったときには懸命に尽くしたつもりですが、仕事が趣味と、いまではあきらめてくれているみたいです(笑)。
Q: 飛行機のように運用できる再使用型ロケットは、実現できそうですか。
現在、RVTの4号機で実験を続けていますが、次のステップでは、まず年に10回以上の頻度で、高度120km以上を弾道飛行して発射点に帰還できる、再使用型の観測ロケットを実現したいと考えています。現状ではロケットを使って研究できる機会はとても限られていますから、1日も早くつくってほしいと、研究者たちから切望されています。
再使用型の観測ロケットができると、中・高層大気中を亜音速で飛行したり、空中に静止して大気のサンプルを採ったりすることもできます。それに打ち上げたところに戻ってきますから、無重量実験も、これまでよりずっとやりやすくなるでしょうね。
将来を展望すると、再使用型のロケットを必要とするビジネスが、飛行機のように需要の多い産業にならなければ、低コストで宇宙を自由に行き来できる日は来ないと思います。観測ロケットによって再使用の可能性とメリットを社会に示すことができれば、考えもしなかった宇宙の有用な利用法を民間の人たちが見いだしてくれるでしょう。それを期待しています。