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ISASコラム

宇宙・夢・人

「宇宙研」が好き!

(ISASニュース 2006年10月 No.307掲載)
 
対外協力室 周東三和子
しゅうとう・みわこ。
1947年生まれ。
1969年、東京女子大学数理学科卒業。同年東京大学宇宙航空研究所入所。ロケットの軌道計算、人工衛星の軌道寿命計算を担当。1993年からデータセンター/対外協力室で、記録映画・ビデオの企画・管理、ペンシルロケット時代からの所蔵フィルムの整理・保存、展示企画、ホームページ企画・作成などに携わる。
Q: 宇宙研に入るきっかけは?
大学では数学を専攻していて、4年生のときアルバイトでコンピュータプログラムを作るお手伝いをしたのが宇宙研との出会いです。当時は東京大学の宇宙航空研究所でした。翌1969年4月に非常勤職員になり、ロケットの軌道計算などのプログラムを作る仕事に携わりました。そして私が入って1年もたたない1970年2月に、日本初の人工衛星「おおすみ」の打上げに成功しました。その前、打上げ失敗が続いていただけに、みんなの喜び方がすごかったですね。打上げ場がある鹿児島県内之浦では、地元の皆さんが旗行列でお祝いしてくださいました。大勢の人たちが力を合わせて何かを成し遂げる。それはとても素晴らしいことだと感じました。
Q: プログラムの仕事で、印象に残っているプロジェクトは何ですか。
初めて探査機の軌道計算の仕事をした「ひてん」(1990年1月打上げ)は、その一つですね。月で何回もスイングバイした「ひてん」では、データを少しずつ変えて何ケースも軌道計算を行いました。実際の運用は夜中に軌道操作を行うことが多いので、子どもたちを寝かしつけて最終電車で来たり、始発が出るころに帰って子どもたちを学校に送り出したりしました。真夜中にみんなで仕事をするのが、何だかすごく楽しかったですね。たまたま、そのたびに雪が降ったんです。仕事が終わって、まだ誰も歩いた跡のない雪道を駅まで歩いて帰りました。その夜明け前の雪景色がとてもきれいでした。
Q: 近年は、広報の仕事もされてきましたね。
1998年に打ち上げた火星探査機「のぞみ」では、皆さんからの署名を募集して衛星に載せました。当時は電子メールもあまり普及していなかったので、はがきの所定のスペースに名前を書いて送ってください、と呼び掛けたんです。署名スペースを切り抜いて、並べて縮小することにしたのですが、予想をはるかに超える27万人もの応募あり、広報担当だけではとてもやり切れない作業量になりました。そこで、顔見知りの職員や学生たちに半ば強制的に手伝ってもらうことにしました。はがきには署名とともに、“病気の子どもの願いがかないますように”など、いろいろなメッセージが書かれていました。切り抜き作業をしながらそのメッセージを読んでいるうちに、もっと手伝わせてくださいと、みんなが積極的に協力してくれるようになりました。“当時、私は学生で宇宙研に来ていたのですが、手伝いましたよ”と、今でも話題になることがあります。

最近ではやはり、2005年11月の「はやぶさ」の小惑星イトカワへのタッチダウンが印象的です。私も夜中に運用があるごとに泊まり込んで、ホームページを通じて「はやぶさ」の様子を皆さんへ伝えたり、記録映像の指示をしたりしました。想定外のいろいろな出来事が起きて、それを「はやぶさ」チームが試行錯誤しながら力を合わせて切り抜けていく様子を目の当たりにしたのです。やはり自分たちの手ですべてを作り上げてきたプロジェクトだからこそ、それができるのだ、と実感しました。皆さんからの反響も本当にすごかったですね。自分たちがやっていることを伝えることがどれほど大切か、あらためてよく分かりました。
Q: 来年3月で定年だそうですが、宇宙あるいは宇宙研の魅力は、どんなところですか。
遠くを見ると過去が見えてくる。それが宇宙のすごく不思議なところですね。ビッグバンで宇宙が始まり、いろいろな星が生まれては死に、太陽系や地球ができ、生命が生まれ、人類がいる。私たちの体には宇宙の歴史の中で作られた元素が詰まっています。私たちは“宇宙の子”であり、一人ひとりがかけがえのない存在なんだということを、いろいろな機会を通じて伝えていきたいと思います。

もう一つ伝えたいことは、みんなで力を合わせて何かを作り上げていくことの素晴らしさです。私は技術職員として働いてきましたが、宇宙研では、研究者、技術職員、事務職員など、それぞれが役割分担をして、対等な立場で言いたいことを言い合い、現場で同じ釜の飯を食って気心を通じ合いながら仕事を進めてきました。宇宙研でずっと仕事をしてきて何が楽しかったかというと、そういうところなんです。宇宙研がその魅力を失わず、宇宙にかける情熱を多くの皆さんに伝えていけるといいですね。