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ISASコラム

宇宙・夢・人

ロケットを安全化する

(ISASニュース 2015年6月 No.411掲載)
 
宇宙飛翔工学研究系 教授 嶋田 徹
しまだ・とおる。1957年生まれ、奈良県出身。工学博士。東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程 博士課程修了。1985〜2000年、日産自動車 宇宙航空事業部。2000年、宇宙研 助教授。2007年より宇宙研 教授および東京大学大学院 教授(委嘱)。
Q: 宇宙開発に興味を持ったきっかけは?
 小学校6年生のときに見たアポロ11号の月面着陸です。京都大学工学部航空工学科へ進学したのも、その影響だと思います。流体力学の方程式をコンピュータで解いて、ガスの動きをシミュレーション解析する数値流体力学(CFD)を学び始めたのは、東京大学大学院に入ってからです。
 その後、1985年に日産自動車宇宙航空事業部に入り、宇宙研の固体ロケット設計に必要なガスの動きをCFDで予測することに取り組みました。予測すればするほど、実験すべきポイントを絞り込むことができ、開発コストの削減に貢献できます。ちょうどCFDの計算手法に革新が起きて高速流体や衝撃波などを安定に計算できるようになり、計算機の性能も急速に向上して、さまざまな現象を再現できるようになり始めた時代です。自分のやりたい研究を思う存分やらせてもらいました。目の前の効率ばかりを重視していては新しいものは生み出せない、そう上司の方々は考えていたように思います。
Q: 2000年4月に宇宙研に移られました。
 その2ヶ月前、M-Ⅴロケット4号機の打上げが失敗し、着任早々その原因究明を担当することになりました。CFDによる解析だけでなく、ロケット製造過程における品質管理の検討やロケット燃焼実験にも携わりました。実験後、みんなで飲みに行く機会が増え、運動不足も重なり、 2006年までには体重が15 kg近くも増えてしまいました(笑)。2003年5月、改良したM-Ⅴロケット5号機が小惑星探査機「はやぶさ」を積んで無事に打ち上げられましたが、11月にH-IIAロケット6号機が固体ロケットブースターを分離できず打上げが失敗し、その原因究明も命じられました。さまざまな可能性を検証して失敗に学ぶことで、今まで解析が手付かずだった現象の理解を深めることができましたが、痩せる暇はなかったですね。
Q: 現在、どのような研究をされているのですか。
 ロケットの安全化による宇宙輸送の低コスト化を目指しています。そもそもロケットは、燃料を燃やしたガスを高速に噴き出した反作用で推進します。固体ロケットでは、燃料に酸化剤を混ぜた火薬を燃やします。液体ロケットでは、水素と酸素の液滴を混ぜて燃やします。それらは酸化剤と燃料の混合の観点では効率的ですが、ロケットの持つ危険性の根源もそこにあり、危険物を安全に扱う手間が低コスト化の阻害要因となっています。その燃焼方式を木材やろうそくが燃えるときのような「境界層燃焼」に替えることで、ロケットを安全化することができます。境界層燃焼では、燃料が気化したガスと酸化剤が接する薄い層の内部に火炎ができます。私たちは、液体酸化剤と固体燃料を用いたハイブリッドロケットによって境界層燃焼を起こして推進させる技術の開発を行っています。その固体燃料には、火薬ではなく、ろうやプラスチックなどの一般工業製品を使うため、取り扱いが容易になり安全管理のコストを大幅に下げることができます。再使用ロケットなどの技術と組み合わせることで、打上げコストを従来の100分の1以下にできる可能性があります。
Q: いつごろ実用化できそうですか。
 ハイブリッドロケットは、高度100km程度までの打上げならば、1970年代から成功例があります。最近、米国の民間企業が高度約100kmの宇宙旅行用に開発しているスペースシップも、ハイブリッドロケットを搭載しています。しかし、さらに高度を上げて人工衛星を地球周回軌道に投入することには、誰も成功していません。ぜひ10年以内に、衛星の軌道投入を実現したいですね。そのような未来を大きく変える技術を築くことこそがJAXAの使命です。私たちは、燃料を改良したり酸化剤を旋回流にして吹き込んだりするなど、燃えにくい燃料を急速に燃やして推進力を高める技術の開発を進め、実現のめどが付いてきました。さらに推力制御と同時に、燃料発生量と酸化剤流量の比を制御する技術の開発を進めているところです。
Q: ところで、趣味はありますか。
 趣味はジョギングと弾き語りです。早朝ランニングを5年ほど続けています。弾き語りは昔から好きで、今でも年1回、「シマダラボライブ」と称してライブハウスを借り、知人を呼んで演奏しています。ボーカルは、なかなかうまくなりませんね。その原因をコンピュータで解析して、音程が低いことは分かったのですが……(笑)。