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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙開びゃくの姿を見たい

(ISASニュース 2014年11月 No.404掲載)
 
宇宙物理学研究系 教授・研究主幹 堂谷忠靖
どうたに・ただやす。1961年、石川県生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。1990年、宇宙科学研究所 助手。同助教授を経て、2005年より同教授。2014年より現職。
Q: 2015年度に打上げ予定のX線天文衛星ASTRO-Hで中性子星の観測を計画しているそうですね。
 中性子星は、質量が太陽の1.4倍くらいで、半径がわずか10kmほどの高密度天体です。ただし、その半径の推定値は8kmから15kmくらいまでと2倍の開きがあります。私たちはASTRO-HのX線観測によって中性子星の大きさを精度よく決めることを目指しています。そのために、中性子星の表面から出てくるX線の波長が重力でどれだけ引き伸ばされているのか、高い精度で観測します。現在観測を行っている「すざく」など従来のX線天文衛星では、波長の観測精度に2%ほどの誤差がありました。ASTRO-Hでは0.1%の誤差で観測できるので、中性子星の大きさを初めて精度よく決めることができるはずです。
 私たちの銀河系には約2000個の中性子星が知られています。ASTRO-Hの感度には限界があるため、大きさを精度よく決めることができるのは、X線で明るく輝く数個の中性子星に限られると思います。どの中性子星を観測するのか、それが研究者の腕の見せどころです。私たちと同様に中性子星の大きさを決めることを目指している研究グループが世界に4〜5チームあります。一番乗りを目指して私たちは今、「すざく」を使って観測ターゲットを絞り込んでいるところです。
Q: 中性子星の大きさから何が分かるのですか。
 中性子星では、原子核と同じくらいの密度で中性子が集まり、そこには核力が働いています。私たちの身の回りの物質をつくる原子核も、陽子と中性子が核力で結合しています。核力は、陽子や中性子が離れていると引力として働きますが、至近距離では反発力として働きます。その核力の性質がまだよく分かっていません。中性子星の大きさを測定することで核力の性質を知る重要なデータが得られ、原子核の理解にも役立ちます。加速器実験やシミュレーションで核力の研究を進めている原子核物理学の研究者からも、私たちの測定に期待が寄せられています。
 また、クォーク星を発見できる可能性もあります。中性子はクォーク3個から成ります。太陽程度の質量を持ち半径が6〜8kmの超高密度天体が見つかれば、それは、クォークが中性子ごとではなく星全体を動き回るクォーク星だと考えられます。
Q: 子どものころに熱中したことは何ですか。
 工作です。部品を組み立ててラジオやおもちゃの自動車をつくりました。でも、途中で別のものがつくりたくなって、未完成のものが多かったですね(笑)。やがて中高生のころから物理が好きになり、一般向けの本をよく読むようになりました。特に『相対論的宇宙論』(佐藤文隆・松田卓也 著)に感銘を受けました。同じ講談社ブルーバックスで都筑卓司さんが素粒子や宇宙分野の本を何冊も書かれていて、それらも愛読書でした。
Q: その後、東京大学に進学して、X線天文学のパイオニアである小田 稔先生の研究室に入られました。
 研究室の先生方や、先輩、後輩たちと議論しながら研究を進めることが性に合っていると思うようになり、研究者になる決心をしました。そのころからずっと宇宙研で、中性子星やブラックホールをX線で観測する研究を行ってきました。それら極限状態の天体では、物理現象が単純明快な形で見えてきます。そこがX線天文学の魅力です。
Q: これからの目標は何ですか。
 過去20〜30年の研究で、すでに知られていた中性子星の中に磁場が極端に強い「磁石星(マグネター)」があることが分かってきました。ほかにも中性子星には、まだ知られていないタイプがあるはずです。中性子星がどのような一生を送るのかも分かっていません。中性子星の多様性や一生を、ASTRO-Hの観測により明らかにしていきたいと思います。2028年には、さらに感度が高いATHENAというX線天文衛星が国際協力で打ち上げられる予定です。ASTRO-HやATHENAの観測により、私は中性子星の全貌が知りたいのです。
Q: どうすれば未知の現象を発見できますか。
 誰が何を言おうと、自分で考え納得して研究を進めること。そうしないと新しいものは見えてきません。