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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙から広がる多様な興味を育みたい

(ISASニュース 2014年3月 No.396掲載)
 
宇宙飛翔工学研究系 助教 竹前俊昭
たけまえ・としあき。1969年、神奈川県生まれ。日本大学理工学部物理学科卒業。私立中学校・高等学校で講師・教諭を経て、1996年、宇宙科学研究所対外協力室助手。2004年より現職。宇宙輸送ミッション本部イプシロンロケットプロジェクトチームおよび宇宙教育センター併任。
Q: 現在、どのような仕事をされていますか?
主に観測ロケットの打上げに携わっています。スケジュールを立てたりメーカーとの調整を行ったりするなど打上げ全般に関わるとともに、ロケットに搭載するタイマーと点火系や火工品を担当しています。火薬を使う火工品は人工衛星や探査機にも使われています。例えば太陽電池パネルは、火薬が燃えた圧力でカッターが押し出され、折り畳んだパネルを止めているワイヤを切断して展開します。今年打上げ予定の小惑星探査機「はやぶさ2」には、たくさんの火工品が使われています。今「はやぶさ2」に組み込んだ火工品が、2018年に小惑星に到着してサンプルを採取するときや、2020年に地球に帰還してサンプルを入れたカプセルを切り離す際に使われます。ミッションの最後を見届けるまで、安心できないですね。
Q: 学校の先生から、宇宙研に移られたそうですね。
高校生のときに日本宇宙少年団(YAC)に入り、現在も関わっています。大学卒業後、母校の中学・高校で2年間講師を務めていたとき、YAC理事でもあった的川泰宣 先生(JAXA名誉教授)と教材づくりを介して知り合いました。その後、私立高校に本採用となった1年目の冬に、的川先生から「宇宙研の対外協力室で、マスコミや一般の人たちの窓口となる仕事を手伝ってくれる人を探している」と誘われました。教師に未練はありましたが、宇宙の仕事に就けるチャンスはめったにありません。教師とは違う形で子どもたちと関わることもできると思い、宇宙研に移ることにしました。
 対外協力室に入ると、宇宙研の現場を知っておいた方がよいと、M-Xロケットの打上げの仕事も経験することになりました。もともとロケットが大好きなので打上げ現場の仕事が面白くなり、その比重が増えていきました。現在、宇宙教育センターの仕事もしています。これからは、打上げ現場の仕事を大切にしつつ、宇宙教育に少しずつ比重を移していきたいと考えています。
Q: 教育に関心を持つようになったきっかけは?
大学生のとき、「鳥人間コンテスト」で人力飛行機を飛ばすサークルに所属していました。究極の性能を追求した飛行機は戦闘機です。飛行機が大好きな仲間たちの話題は、戦闘機の性能が中心でした。でも、戦闘機は戦争の道具です。技術が使われる目的を見ないで、その性能だけに関心を持つ姿に、私の技術に対する熱は急に冷めていきました。ものをつくり出す技術者になりたいと思っていましたが、人を育てる教育が大切だと思うようになり、教師を志しました。
 大学生のときからYAC横浜分団のリーダーも務めていて、高校生以下の団員の子どもたちと接してきました。最初は人力飛行機づくりや、ロケット技術などの知識を子どもたちに教えることで満足していました。そして将来は、天文学者やロケット技術者、宇宙飛行士になってほしいと思っていました。しかしそういう人たちだけで、社会は成り立っているわけではありません。宇宙という共通の根からさまざまな方向へ興味の枝を伸ばし、いろいろな分野で活躍する人に育ってほしいと思うようになりました。
Q: 多様な関心を育む宇宙教育とは?
宇宙教育センターでは今、島根大学の先生と共同で宇宙を題材とした授業を行っています。先日、ある高校に呼ばれて、スペースコロニーに新しい理想社会をつくるとしたら、というテーマを考える授業を行いました。宇宙を題材としながら、戦争や貧困、飢餓など現実社会が抱える問題を考える必要があるテーマです。
 海外へ行くと、日本のことを見つめ直す機会になります。同じように宇宙からの視点を持つことは、地球や生命、人類社会のことを考え、さまざまな分野に興味を持つことにつながると思います。例えば、宇宙における生命探査の難しさを知ることで、豊かな生命を育む地球の大切さをあらためて感じ、地球や生命への興味が広がることでしょう。
 生命が海から陸へ進出したのと同じレベルの大事件が現在進行中です。人類の宇宙への進出です。私たちは幸運にも、その生命史の大事件に立ち会っているのです。多くの人が宇宙飛行士と同じような意識で地球や生命、社会を見つめることで、人類の価値観は大きく変わると思います。