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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙プラズマのすべてが明らかになる日

(ISASニュース 2013年12月 No.393掲載)
 
学際科学研究系 准教授 篠原 育
しのはら・いく。1968年,東京都生まれ。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科地球惑星物理専攻博士課程修了。1997年,宇宙科学研究所助手。2002年より現職。2008年よりGEOTAILプロジェクトマネージャー。科学衛星運用・データ利用センターにて科学衛星データアーカイブの開発・運用業務も担当。専門は宇宙プラズマ物理。
Q: 学際科学研究系の所属ですが,どのような研究や業務をされているのですか。
私は衛星やロケットなどの“ものづくり”に直接は関わっていないという,宇宙研の中では数少ない部類の研究者ではないでしょうか。計算機を道具として主に三つの仕事をしています。一つは,科学衛星が取得したデータのアーカイブを開発・運用し,世界中の研究者にデータを提供することです。専門が宇宙プラズマ物理なので,磁気圏観測衛星「あけぼの」や磁気圏尾部観測衛星GEOTAILなど太陽地球系科学分野のデータを主に担当しています。新たに取得したデータだけでなく,古いデータの公開も進めています。
 太陽の活動は11年周期で変動し,地球磁気圏も影響を受けます。太陽活動の2周期以上にわたって観測を続けている「あけぼの」やGEOTAILの観測データは,太陽活動と地球磁気圏の変動の関連を理解する上で,とても貴重です。データにはまだ公開されていないものもあります。それらを公開していくことで,当時にはなかった新しい視点で解析する研究者が現れ,磁気圏の理解が進む。それを期待しています。
Q: GEOTAILのプロジェクトマネージャーを務めていますが。
それが二つ目の仕事です。GEOTAILは打上げ後20年以上も観測を続けている古い衛星ですが,各方面からのご協力のおかげで大きなトラブルもなく,日々淡々と観測を行っています。そのデータを粛々と処理・公開し,さらなる研究の発展に貢献することが,私の役割です。
Q: 三つ目は?
数値シミュレーションを使って宇宙プラズマの研究をしています。衛星が観測できるのは,広い宇宙の中のとても狭い1点だけです。その観測データだけから全体像を理解することはできません。観測データと数値シミュレーションを組み合わせることで,初めて分かることもたくさんあります。また,地球磁気圏は衛星がそこに行って観測できるので,数値シミュレーションの結果が正しいかどうかを確かめることが可能です。それが,この研究の面白さですね。しかし,数値シミュレーションではまったく予想のできない観測データが出た方が面白いな,とも期待しています。正しければうれしいし,違っていたら今度はこういう計算をやってみようとワクワクします。
Q: 現在,どのようなテーマに取り組んでいるのですか。
宇宙プラズマ分野での大きな興味の一つは,磁気リコネクションです。磁力線がつなぎ替わる現象で,プラズマの爆発を誘導します。GEOTAILの観測によって宇宙における磁気リコネクションの存在は確かめられましたが,なぜ,どのように起きるのかといった詳しいことは分かっていません。それを数値シミュレーションから探ろうとしているのですが,とても難しい。プラズマを構成する電子とイオンの粒子1個1個の運動を計算しなければいけないので,非常に高速の計算機が必要です。観測データも足りません。2014年にアメリカが4機の衛星から成るMMSを打ち上げるので,そのデータが待ち遠しいです。GEOTAILにも,まだまだ頑張ってもらわないと。
Q: 日本の磁気圏探査衛星の計画は?
MMSにも,イオン分析装置の開発をはじめ日本の研究者が深く関わっています。また,2015年にジオスペース探査衛星(ERG)が打ち上げられる予定です。もう一つ,国際協力で5機以上の衛星から成るSCOPEという編隊衛星計画の検討を進めていますが,実現への道のりはまだまだ遠いです。SCOPEは,磁気リコネクションをはじめとする宇宙プラズマの謎の多くを明らかにできるであろう画期的な計画です。何とかSCOPEを実現したいですね。それが,今の私の夢です。
Q: 子ども時代から宇宙に興味があり,この道に進んだのですか。
いいえ。私はボ〜ッとした子どもだったようで,将来何になりたいか,考えていた記憶もありません。大学2年生のときに講義で初めて宇宙空間物理という研究分野があることを知りました。西田篤弘先生の『宇宙空間への招待』(岩波新書)などを見つけて読み面白そうな分野だと思っていましたが,大学院では海洋物理の研究室に進むつもりでした。ところが大学院入試の前にたまたま太陽地球系科学分野の研究室を見学したとき,国際協力でたくさんの衛星を打ち上げて地球磁気圏を調べる計画があり,日本もGEOTAILを打ち上げ,その研究室ではGEOTAILの磁力計を開発していると聞きました。その話に一瞬で魅せられ,突然進路を変えて今に至ります。
Q: 趣味は?
たまにパンを焼きます。発酵中にパン種が育っていく様子を見ていると,とても楽しいです。でも,人に食べてもらえるほどの腕ではないので,「つくって」とは言わないでくださいね。