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ISASコラム

宇宙・夢・人

「はやぶさ」と阪神タイガース

(ISASニュース 2004年9月 No.282掲載)
 
固体惑星科学研究系 安部 正真
あべ・まさなお。
1967年、神奈川県生まれ。
1990年、東京大学理学部地球物理学科卒業。1994年、東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻博士課程中退、宇宙科学研究所惑星研究系助手。小惑星探査機に搭載する表面物質採取システム・近赤外線分光器の開発、小惑星表面物理モデルの研究、次期小天体探査の検討などを行っている。
Q: 「はやぶさ」は2005年夏に小惑星イトカワに到着し、いよいよサンプルの採取ですね。サンプラーの開発で難しかった点は?
小惑星表面からの試料採取は、まだ誰もやったことがありません。まったく新しい装置を開発するときは、試行錯誤の連続です。まずは身の周りに使えそうな物がないか探し、アイデアを考えます。見るもの触るものすべて「これを使えないかな」と考えてしまう生活が1年くらい続きました。

 サンプラーのヒントとなったのは漏斗です。「はやぶさ」は、弾丸を小惑星の表面に打ち込んで、飛び散った試料を採取します。小惑星表面の重力は地球の10万分の1と小さいので、飛び散った試料は落下しません。漏斗状の装置ならば、飛び散った試料を上で待ち構えていて集め、小さな収納箱にまで簡単に導くことができると考えたのです。弾丸を打ち込む前に落とすターゲットマーカーという目印は、小さな重力でも跳ね返らないようにするのが大変でした。いろいろな素材のボールを買ってきて試しましたが、結果的にはお手玉がよかった。中に粒々がたくさんあると、跳ね返らないのです。

 みんなでアイデアを出し合って、議論や実験を繰り返し、ようやく装置が完成します。日ごろから広い視野を持って、いろいろな経験をすること。それが、いいアイデアを出す近道ですね。
Q: 2007年夏に「はやぶさ」が持ち帰るサンプルはどのくらいですか?
1〜5gくらいの試料を持ち帰ることができればと思っています。少ないようですが、それだけあれば数百人の研究者が解析できます。これまで人類が持ち帰った固体惑星の試料は月だけです。「はやぶさ」が持ち帰る小惑星の試料からは、予想もしなかった発見があるのではないかと期待しています。

 探査機がその場で観測する場合、探査機が打ち上げられる以前に開発された装置しか使えません。しかし、サンプルリターンであれば、試料の一部を保存しておいて将来開発される優れた装置で解析することもできます。サンプルリターンが、惑星物質科学を発展させる鍵を握っているといえるでしょう。
Q: 次のミッションは?
小惑星にはいくつかのタイプがあります。イトカワとは別のタイプの小惑星からのサンプルリターンを考えています。できれば、1機の探査機で複数の小惑星を巡りたい。ローバを小惑星表面に降ろして観測することも計画しています。

 太陽系の外には、まだよく分からない天体がたくさんあります。太陽系の外縁部にあるカイパーベルト天体もぜひ探査してみたい。ローバを使って有機物や水を詳しく観測できれば、太陽系の起源、さらには生命の起源にまで迫れるでしょう。
Q: これだけはやりたい、という夢はありますか?
一生のうちで絶対見てみたいと思っていたものが3つあります。大流星雨と日食とオーロラです。大流星雨とまではいきませんでしたが、数年前にしし座流星群を見ることができました。日食は、大学生のときに沖縄まで金環食を見に行きましたが、皆既日食はまだ。日本でも皆既日食が見られる2009年を狙っています。あとはオーロラですね。本やテレビで得られる知識や感動もありますが、実体験によってしか得られないものもたくさんあります。いろいろなことを体験し、いろいろなものに触れたい。いつもそう思っています。
Q: 宇宙に興味を持ったきっかけは?
カール・セーガンの『コスモス』の影響が大きかったですね。探査機「ボイジャー」が太陽系の惑星を次々と巡っていたときは、新聞の写真を切り抜いて部屋の壁にはったりしていました。自分が「ボイジャー」の写真を見て感動したように、自分がかかわった探査機が子供たちに感動や夢を与えることができたらいいですね。そのためにも「はやぶさ」を、ぜひ成功させたいと思っています。