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宇宙・夢・人

ロケット打上げは、やっぱり楽しい

(ISASニュース 2013年11月 No.392掲載)
 
宇宙機応用工学研究系 教授/臼田宇宙空間観測所 所長 山本 善一
やまもと・ぜんいち。1958年、東京都生まれ。工学博士。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。1986年、宇宙科学研究所助手。助教授を経て、2003年より教授。2010年より臼田宇宙空間観測所 所長。
Q: イプシロンロケットの初めての打上げでは、打上げ執行責任者代理を務められました。
ある会議で森田泰弘先生からいきなり指名され、驚きました。M-Xロケットの打上げでは電気系主任として森田先生の補佐をしていましたが、打上げの現場は7年ぶり。しかも先進的なロケットの初打上げということで、役に立つかどうか不安もありました。
Q: 8月22日の打上げで19秒前に緊急停止したときの気持ちは?
打上げでは、たくさんの人がその瞬間に向けて全神経を集中しています。それが突然中止となり、緊張感が一気に脱力感へと変わりました。しかし、がっかりしている暇はありません。すぐに原因究明の作業を始めました。原因が搭載計算機と地上装置の通信時間のずれであると判明した後、特別点検チームが組織され、総点検が行われました。その中で、計算機が行うチェック項目のすべてを専門家の目でもう一度丁寧に確認しました。この作業は関係者にとっては非常につらかったですね。
Q: 9月14日、打上げに成功しました。そのときの管制室の様子は?
みんなで握手をして喜び合いました。しかし、私はその輪から抜けて、車で15分ほどのところにある34mアンテナに向かいました。私にはもう一つ、衛星の初期捕捉という仕事があったのです。ロケットから切り離されて地球周回軌道に投入された衛星が約1時間40分後に戻ってきます。その衛星からの電波を受けるのです。従来の固体燃料ロケットは衛星の軌道投入精度がさほど高くないため、予測した位置にアンテナを向けていてもうまく捕捉できませんでした。今回も、統合追跡ネットワーク技術部と一緒に困難な事態を想定してさまざまな作戦を練っていました。ところが、イプシロンの軌道投入精度が非常に高く、予測通りの位置で衛星を捕捉できました。PBS(Post Boost Stage)という小型液体推進系のおかげです。今回の衛星捕捉作業は、拍子抜けするくらい簡単過ぎましたね。
Q: イプシロンの打上げを振り返って、どのように感じていますか。
今回の打上げは、NASDAで開発されたH-IIAの文化で育った人たちと、宇宙研のM-Vの文化で育った人たちが入り交じって仕事をするという特殊な環境でした。M-V方式に慣れている私たちには戸惑うこともいくつかありました。しかし、最後には一体感が生まれ、素晴らしい打上げとなりました。一方で、多くの人が忙しく動き回りとても苦労している様子を見て、「これのどこが計算機でスマートに打ち上げられるロケットなのだろうか」と思ってしまったときもありました。森田先生、ごめんなさい。生みの苦しみとはいえ、これほど人に負荷がかかってしまったのは、森田先生にも想定外だったと思います。その点は、次号機へ向けての課題です。何はともあれ、打上げには独特の緊張感があります。久しぶりにそれを味わうことができて、楽しかったです。
Q: 電気系主任のほかにもさまざまな仕事をしてきたそうですね。
通信系機器やロケットの追跡アンテナの設計など、いろいろな現場を歩いてきました。小惑星探査機「はやぶさ」では、搭載する通信系機器の設計に携わり、打上げでは電気系主任を務め、地球帰還のときは臼田宇宙空間観測所で最後まで運用の場にいました。弱々しかった「はやぶさ」からの信号が地球に近づくにつれて次第に強くなり、本当に帰ってきたんだなと実感しました。通信途絶や数々の危機的状況を乗り越え、通信系機器が一つも壊れずに探査機の生命線としての役割を果たせたことに、ほっとしました。
Q: 臼田宇宙空間観測所ではどのような仕事をされていますか。
臼田の64mアンテナは建造から約30年がたっています。今、関係者で新しいアンテナの建造を検討しています。30年前、先輩たちが立派なアンテナをつくってくれたおかげで、私たちは「はやぶさ」のような惑星探査ができるのです。私たちも30年先を見据えて、長く使えるアンテナを残さなければなりません。それには、情報量の多い、より高い周波数の電波を受信できることが必要です。周波数が高いほど技術的には難しくなります。これまでの経験を活かして、数々の技術的課題を克服していきたいと思っています。
Q: 趣味は?
天体観測と写真撮影です。小学4年生のとき、頼んでもいないのに親が天体望遠鏡を買ってきてくれました。それ以来、天文少年になりました。写真の被写体はアンテナが多いですね。季節や時間によってまったく違う顔を見せてくれます。内之浦でもアンテナの写真を撮っている方がいて、その写真がJAXAのカレンダーに採用されたときは、悔しかったですね。次の年、私が撮影した臼田のアンテナの写真がカレンダーに採用されました。しかも、内之浦より大きく掲載されました。うれしかったなあ。