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ISASコラム

宇宙・夢・人

未来の宇宙輸送機を目指して

(ISASニュース 2013年3月 No.384掲載)
 
宇宙飛翔工学研究系 准教授 川勝 康弘
かわかつ・やすひろ。1968年、京都府生まれ。博士(工学)。1996年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。1997年、宇宙開発事業団(NASDA)入社。2003年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部 宇宙航行システム研究系 助教。2008年より現職。
Q: 新しい小型衛星を検討しているそうですね。
固体燃料を使う「イプシロンロケット」で打ち上げる小型科学衛星として、私たちは、深宇宙探査技術実験機「DESTINY」を提案する予定です。私たちのほかにも10グループほどが独自の計画を検討しています。今年中に提案の募集・選定が行われ、2018年度に打ち上げられる予定です。
私は、月周回衛星「かぐや」や金星探査機「あかつき」など探査機の開発や運用に取り組んできました。特に、軌道の設計が専門です。地球や月の重力が働く地球の周辺は、さまざまなバリエーションの軌道が考えられるとても面白い領域です。
「DESTINY」は、小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたものの倍の直径を持つ大型イオンエンジンμ20を使って、地球のまわりを何回も回りながら徐々に地球を離れ、月へ到達する軌道を取ります。そして月の重力を利用したスイングバイで加速し、さらに遠い深宇宙へ向かう技術を実証します。イプシロンロケットだけの推力で深宇宙へ運べる機体の重さは150〜200kgくらいまでです。イオンエンジンを使ったそのような軌道により、400kgの機体を運ぶことができます。
従来、深宇宙へ行くには大型のロケットや探査機が必要で、多額のコストが掛かるため打上げ機会は限られていました。「DESTINY」の最大の目的は、比較的低コストで深宇宙に行く方法を実証することです。深宇宙に向けての打上げ機会が増えれば、科学観測や工学実験の冒険的な試みもできるようになり、そこから新しい世界が広がることでしょう。
Q: 子どものころから、工学に興味があったのですか。
メカが好きで、高校までは飛行機を設計する仕事に就きたいと思っていました。そして東京大学の航空宇宙工学科へ進みましたが、そのころになると、日本では飛行機の設計ができる機会が限られていることを知り、宇宙システムを研究している研究室に入りました。
探査機などの開発は、あらかじめ仕様書があるわけではなく、どんなミッションにするか理学系の研究者と話し合うところから始まります。そして、いろいろな条件を勘案し、さまざまな技術を持ち寄り、一つのシステムとして組み上げていきます。そこが難しく、また面白いところです。
ある技術の進展が、別の技術の性能向上を可能にして、全体として優れたシステムが実現できる場合があります。「DESTINY」では、JAXAつくば宇宙センターと企業が共同開発した高性能の薄膜太陽電池を主電源として用います。従来、1kgの太陽電池で発電できるのは50Wが限界でした。その新しい薄膜太陽電池では100Wは確実で、目標は150Wです。大きな電力を確保できる見通しが立ったので、電気推進のイオンエンジンの性能を引き上げて、μ20を搭載することが可能になったのです。
Q: 今後、どのように研究を進めていきますか。
私は、アニメの『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』を見て育ちました。そこに描かれているような、たくさんの人たちが宇宙で活動する時代は、必ずやって来ます。その時代の人たちから見て、的外れなことはしたくありません。
現在の探査機には、目的地まで行く輸送機能と、目的地で探査するための機能が詰め込まれています。宇宙機が飛び交う時代には、物を運ぶことに特化した輸送機と目的地で仕事をする装置に分離していると思います。宇宙輸送機はどこへ行くにも使い回して、量産化により輸送コストも安くなっているはずです。
Q: その宇宙輸送機とは、どのようなものですか。
そこには、高性能の太陽電池と電気推進エンジンが搭載されているはずです。「DESTINY」は、未来の宇宙輸送機の先駆けとして考えているのです。将来は、地上から指令を送らなくても、宇宙機自体が判断して自律的に航行できるようになっているはずです。「DESTINY」では、自律化のための技術も検証します。
未来がどうなるか分からなければ、現在、自分が行っていることの意味も分からず、迷いが生じます。時期は分かりませんが、宇宙の時代が来ることに私は疑いを持っていません。それを前提に、その時代にはこういう技術が必要とされるはずだ、といった発想で研究に取り組むことができます。自分の人生を超えた人類の宇宙活動史において、一定の役割を果たすことができるように、研究・開発を進めていきたいと思います。