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ISASコラム

宇宙・夢・人

「はるか」で活動銀河核の謎を解く

(ISASニュース 2004年5月 No.278掲載)
 
宇宙情報エネルギー工学研究系 Philip EDWARDS
フィリップ・エドワーズ。
1962年、オーストラリア生まれ。
アデレード大学Ph. D.(物理学)。専門は電波天文学およびガンマ線天文学。東京大学宇宙線研究所研究員、アデレード大学研究員を経て、1994年宇宙科学研究所研究員。1999年助手。VSOPによる活動銀河核の観測、次期電波天文衛星VSOP-2プロジェクトの検討などを行っている。
Q: 電波天文衛星「はるか」で観測をしているそうですね。
電波は波長が長い光(電磁波)なので、1基の電波望遠鏡ではあまり細かい像は得られません。しかし、世界中の電波望遠鏡で同じ天体を観測してデータを記録し、後で時刻を合わせて観測データを合成すると、高い解像度が得られます。望遠鏡同士の距離を基線と呼びますが、基線が長いほど高い解像度を得ることが可能となるのです。

 宇宙研では、1997年に「はるか」を打ち上げ、地上にある世界中の電波望遠鏡と協力して最長約3万kmの基線を実現し、波長18cmと6cmの電波を観測しています。VSOPというプロジェクトです。波長6cmの観測では、例えば私の母国オーストラリアから日本にある1円玉が見えるほどで、これはハッブル宇宙望遠鏡と比べても150倍も高い解像度(0.0003秒角)です。
Q: どんな天体を調べているのですか。
銀河には、中心部の狭い領域が異常に明るく光っているものがあります。その領域は「活動銀河核」と呼ばれ、中心に太陽質量の1000万〜100億倍という超巨大ブラックホールがあると考えられています。活動銀河核は、宇宙の中で最もエネルギーが高く、激しい現象が起きている場所の一つです。そこで何が起きているのか知りたいのです。

 超巨大ブラックホール自体は直接見えませんが、そこに物質が激しく流れ込み、一部の物質はジェットとなって噴き出しています。私たちはVSOPで、そのジェットを詳しく観測しています。例えばジェットの根元の明るさが、初めて分かってきました。5兆度以上の温度に相当する明るさのものも見つけました。でも理論的に考えると、そんなに高温であるはずがありません。ジェットが私たちの方向へ噴き出していて、見かけ上、異常に明るく見えているのだと考えられます。また、ジェットの根元では物質が常に一様に噴き出しているのではなく、らせんを描いたり、途中で折れ曲がったり、時々高エネルギーのプラズマの塊が噴き出しているらしいことも分かりました。しかし、なぜそんな現象が起きているのか、まだ誰にも分かりません。
Q: 日本で研究することになった経緯は?
オーストラリアのアデレード大学で宇宙線の勉強をしました。地球大気に飛び込んでくる宇宙線のほとんどは陽子ですが、エネルギーの高いガンマ線もやってきます。そのガンマ線の研究でPh. D.を取りました。その後、ポストを探しているとき、日本の文部省の奨学金のことを知りました。指導教官に相談すると、「宇宙線のいろいろな計画があるので、良いと思いますよ」と、日本の先生を紹介してくれました。1987年から3年間、東京大学の宇宙線研究所で研究を行いました。

 1990年にアデレード大学に戻り、ガンマ線が大気に衝突するときの光を観測する日本とオーストラリアの共同プロジェクトCANGAROO(カンガルー)に参加しました。活動銀河核が出す高エネルギーのガンマ線の観測を行っていたのです。あるとき、電波望遠鏡の観測の手伝いをする機会がありました。そこで「あなたは日本での経験もあるので、宇宙研に行ってVSOPプロジェクトに参加してみたらどうですか」と誘われました。解像度の高いVSOPで活動銀河核を観測してみたいと思い、1994年に宇宙研に来ました。
Q: 現在、宇宙研で唯一の常勤の外国人研究者ですね。
VSOP室の先生たちは英語がうまいのですが、学生との会話では、自然な英語ではなく“国際的な英語"を話さないと通じない場合もありますね。でもアメリカから宇宙研に来たポスドクには「日本で、オーストラリア語を勉強しました」と言われました(笑)。

 オーストラリア人の妻との間に2人の息子がいます。上が5歳になるので、日本で学校教育を受けさせるかどうか決める時期です。家族のことも考えなければいけませんし、研究者として宇宙研でやりたい夢もあります。
Q: その夢とは?
NASAが2007年ごろにGLAST(グラスト)というガンマ線天文衛星を打ち上げる予定です。一方、私たちは現在、次期電波天文衛星VSOP-2プロジェクトの検討を行っています。GLASTとVSOP-2で同時に活動銀河核を観測することが私の夢です。例えば、ガンマ線で爆発的に光った後に、電波で明るく輝く高エネルギーのプラズマの塊が噴き出してくると理論的に予想しています。しかし本当にそうなのか、観測で確かめてみたいのです。予想外の結果が出てくると面白いですね。