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ISASコラム

宇宙・夢・人

だからサイエンスは面白い!

(ISASニュース 2003年10月 No.271掲載)
 
高エネルギー天文学研究系 高橋 忠幸
たかはし・ただゆき。
高エネルギー天文学研究系教授。1959年、新潟県生まれ。
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。専門は高エネルギー宇宙物理学。1988年、東京大学理学部物理学教室助手。1995年、宇宙科学研究所入所。X線、ガンマ線による宇宙の高エネルギー現象の観測、および新しい検出器の開発を行っている。
Q: 巨大ブラックホールの周りなど宇宙の高エネルギー現象から発生するX線やガンマ線の観測をされているそうですね。
現在は、2005年に打上げ予定のX線天文衛星ASTRO-EIIや将来の科学衛星に搭載するガンマ線や硬X線(波長の短いX線)の検出器を開発しています。新しい観測技術を使って宇宙を見ると、今まで思ってもみなかった現象がいろいろと見つかる。そこが宇宙観測の面白いところです。ガンマ線はそもそも天体から届く量も少なく、波長が短いため物質を突き抜けてしまうので、検出することがとても難しい。ガンマ線での宇宙観測は未開の分野です。新しい原理に基づく感度の高い検出器を開発して、ガンマ線観測で世界の先陣を切りたいと思っています。

 もともと私は加速器による素粒子実験をしていました。その後、素粒子実験の技術を使ってガンマ線検出器を開発し、大きな気球に搭載して観測を行ってきました。その技術と、ISASでX線の観測を行ってきた人たちの技術を融合させる形でASTRO-EIIの開発を進めています。
Q: 将来はどのようなことを目指しますか。
それは簡単には言えませんよね。学問はあっという間に細分化してしまいます。いつの間にか自分が幹から外れて細かい枝を進んでいることもあるわけです。私は、あらゆるものの基本となるところへ向かって、太い幹を進んでいきたいのです。すでに開かれた道を進むことではなく、新しい道をつくっていくことがサイエンスです。この先に何があって、どういう方向に行くか分からない。常に賭けです。ですからサイエンスは、どのように進めていくかがとても重要です。

 例えば、2002年にノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生にしても、最初から道が分かっていたとは思えない。そのときの状況から何が大事かを敏感に判断して、非常にダイナミックに進む道を変えてこられた。サイエンスにはそういうダイナミズムがあって、その波に乗って新しい道を切り開いていく感覚そのものが、とても面白い。波に乗り続けるには、やり方を常に変えていく力を持ち続ける必要があります。視野を広く持ち、明日には違うことを勉強して、今までまったく関係ないと思われていた技術を融合しないと、新しいものはつくれません。アイデアを現実にこう展開して、こんな面白いことができるのでは、と考える時間が一番楽しいですね。よく電車を乗り過ごしますよ(笑)。
Q: 科学者を志したきっかけは?
小学校のときから物理の本や、それこそSFや手塚治虫などの漫画を山のように読んで育ちました。そういう下地はありましたが、それがきっかけというわけではないですね。文系に進んでもいいと思ったこともあったし……。とにかく、そのとき、そのときに面白いことだけをやり続けてきたら、ここにいたのです。

 いろいろな現象のもととなる最も基本的なもの、さまざまな現象を記述できる理論に興味を持ってきました。そのような基本的な問題に取り組みたいという思いが、素粒子や宇宙をやってきた理由ですね。

 大学院生のとき、アメリカのスタンフォード大学で加速器実験に参加しました。そこで自分の思っている疑問が、世界のトップの人たちが抱いている疑問と同じだと分かり、とてもエキサイティングでした。ISASでも同じことを感じています。私たちは世界をリードする立場にあり得るのです。ISASは、自分たちが本当に面白いと思うことをやれる非常に恵まれた環境です。もちろん責任を持って結果を出していかなければいけないし、大変なことはたくさんあります。しかし自分が面白いと思うことはやり続けられますよね。
Q: 先生のように面白いことをやり続ける秘けつは?
面白いと思うことを中途半端ではなく、ちゃんとやらなければいけない。私の研究室のモットーは、“マニアになれ”です。人と違う何かを持ち、それを伸ばしてプロフェッショナルになる努力をしなければ。自分が面白いと思えるもので、頑張ればよいのです。