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ISASコラム

宇宙・夢・人

手作りの懐中電灯と宇宙ロボット

(ISASニュース 2003年9月 No.270掲載)
 
次世代探査機研究センター長 中谷 一郎
なかたに・いちろう
宇宙科学研究所教授。次世代探査機研究センター長。1944年、旧満州生まれ。
東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。専門は制御工学。1972年、日本電信電話公社電気通信研究所研究員。1981年、宇宙科学研究所入所。ロケットや科学衛星の制御、宇宙ロボットを研究。
Q:
ロケットや科学衛星の制御の研究から発展して、最近は、宇宙ロボットの研究をされているそうですね。
宇宙科学研究所の科学衛星も月や火星、小惑星を目指すようになりました。するとロケットや地球の周りを回る科学衛星のような自動制御や地球からの遠隔操作だけではすまなくなります。何が起きるか分からない未知の世界で、その場の状況に自分で対応できる“知能”を備えた宇宙ロボットが必要です。
Q:
5月9日に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」に、宇宙ロボットが搭載されていますね。
「ミネルバ」という小さなロボットです。小惑星上の重力は、地球上の1万分の1〜10万分の1程度と非常に小さいので、車輪だと摩擦力が働かず空回りしてしまいます。ミネルバは跳びはねながら移動して、画像を撮影します。その最初のアイデアを学位論文として出したのが、私の研究室の大学院生だった吉光君(現・宇宙研助手)です。研究室で、ほかにも、提案段階の月探査ミッションSELENE-Bの探査車などを検討しています。月面を車輪で動き回って地質試料などを採取し、その場で分析したり、着陸機まで持ち帰ってくる移動ロボットです。
Q:
どのようなことが開発の課題ですか。
例えば、初めての場所を動き回りながら障害物を判断することです。これは大きな石だから危ないので避けようとか、小さな石だから乗り越えようとか、幼児でもわけなく判断できますが、ロボットには難しい。さらに目的地に着いた後、ロボットアーム(マニピュレータ)で試料となる岩などをしっかりとつかむことも容易ではありません。分析のために試料をスライスしたりすることも難しい。地層を調べるために穴を掘ることも必要ですが、深さ10mの穴を掘れる宇宙ロボットは、世界にまだないと思います。

 いろいろと課題はありますが、技術は着実に積み上げられています。まずは月、そしてさらに火星など遠くの天体を目指したいですね。
Q:
宇宙ロボットはどのように進化していくのでしょう。
どんどん賢くなって、人間よりもひとまず先に宇宙に進出していくでしょう。月や惑星にたくさん送り込まれ、「ロボット植民地」ができるかもしれません。そこではロボット同士が協力して工場や基地を運営したり、探検して開拓を行う。その活動状況を地球に電波で送ってきて、“次はどうしますか”と人間に相談します。やがて宇宙ロボットが太陽系全体にばらまかれる。楽しいですね、そうなると。それが私の夢です。
Q:
子供のころからロボットに興味があったのですか。
好きでした。ロボットなどの絵ばかりを描いていましたね。ものを作ることに関心があって、小学校1〜2年生の時には、竹筒を切って電池を入れ、針金で豆電球につないでブリキの手製スイッチを付けて懐中電灯を作りました。パッとついた時のうれしさは、この歳になっても忘れられないですね。小学校4年生の時には、鉱石ラジオを作りました。夢中になって悪戦苦闘しているうちに、やっと蚊の鳴くような音が聞こえてきて、飛び上がって喜んだ。どうして音が出るのだろうと、根源的な楽しみがありました。ものを作ったり、原理を解明することは、すごく面白いし、わくわくします。ところが今は、出来上がったものが何でもある。子供たちが本能的な好奇心や喜びからどんどん離れてしまっていて、気の毒ですね。そういう喜び・興奮を味わっていないと、理科から遠ざかっていきますよね。
Q:
研究者になってから、感激したことは?
やはりロケットがうまく打ち上がった時です。長年苦労して、難しい開発をチームのみんなでやってきた。しかも相当なお金を使って。毎回、打上げの時には冷や汗でびっしょりです。胃潰瘍に何度もかかりました。

 小さな豆電球がついて、夜眠れないくらいうれしかった。それとロケットがうまく打ち上がるようにと開発する時の気持ち。創造の喜びや原理を追求する好奇心は、小学生も研究者も同じです。若い研究者にも、そういう原点を忘れずに、初志を貫いて欲しいですね。