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ISASコラム

第47回
火星探査機「のぞみ」その4

(ISASニュース 2007年3月 No.312掲載)

のぞみ

2002年4月26日、探査機がビーコンモードからテレメトリモードへ切り替わらない状況の中、どのようにしたら探査機からの情報が得られるか、また、どのようにしたら探査機の状態を診断できるか、関係者の英知を集めた取り組みが始まりました。

原因究明に威力を発揮した自律化機能

まず、衛星の頭脳の役割をしているDHU(データ・ハンドリングユニット)の中で使用しているE2PROMの一部をアップロードして、テレメトリの回復を試みましたが、回復に至りませんでした。しかし4月29日に行ったコマンドによるXバンドアンプのオフ・オン制御(ビーコンがオフ・オンになる)は正常に動作し、コマンド、DHUの正常動作が確認されました。

そこで、このビーコンのオフ・オン機能と自律化機能を組み合わせて、衛星の中の各種機器の状態(HKデータ)の推定を行うという画期的な方法を編み出しました。ビーコンのオフ・オンのモニターにはスペクトラムアナライザを使用し、この方法によって「姿勢制御電子部は正常だが、共通系電源(CI-PSU)がオフ状態になっているため温度制御が不能になって推進系の配管系が凍結している。また、この電源を使用しているいくつかの機器も機能していない」ことが明らかになりました。

CI-PSUがオフ状態になっている原因の一つとして、この電源から供給している下流機器のどこかでショートが起き、過電流が流れ、ブレーカが作動し、電源の供給を遮断していることが考えられました。この電源の遮断により、テレメトリモードへの変更のリレー不動作と、熱制御回路の不動作による推進系燃料の凍結で、姿勢制御機能の停止が生じている、と推定されました。このままだと配管系のどこかで破裂するおそれがあるため、2002年5月3日に観測機器を順次オンして緩やかな昇温を図りました。その結果、9月ごろには探査機内部のタンクおよび配管内の燃料の解凍が見られ、ひとまず胸をなで下ろしました。

「のぞみ」電源系の系統図

CI-PSU回復への涙ぐましい壮絶なオペレーション

その後予定されていた2回の地球スウィングバイを経て2003年末〜2004年初めの火星軌道投入を成功させるためには、現在の探査機不具合個所を回復させなければなりません。現象を解析した結果、これらの不具合はCI-PSUがオフになっていることが重大な要因であることが明らかになったため、この電源の回復に全力を注ぐことになりました。

回路解析や地上試験結果も踏まえ検討を重ねた結果、CI-PSUに連続オンコマンドを送ることによって下流のショート個所に繰り返し短時間の電流を流し、その個所を焼き切って機器の過電流回路を切り離し、CI-PSUを復活させる、という方法が取られました。

この方法は電源が不安定領域を通過するため、電圧の不完全な立ち上がりによりビーコン通信系の制御リレーがランダムにオン・オフされ、途中ビーコンがオフすることも予想されたので、電源を回復させるための長期にわたる涙ぐましい壮絶なオペレーションが続けられました。連続オンコマンドにより2002年5月15日ビーコン喪失、2002年7月25日までの約2ヶ月間、7500回程度のオンコマンド施行後ビーコン復活。その後2002年12月20日と2003年6月19日の2回にわたる地球スウィングバイを成功裡に実施した後も、焼き切るための連続オンコマンドオペレーションが続行されました。

そして2003年7月9日、再びビーコンが喪失しましたが、連続オンコマンドは2003年12月の初めまでに総計1億3000万回送り続けられました。この間、「のぞみ」チームは搭載計算機の誤動作の可能性を排除するために搭載ROM書き換えなどを試みましたが効果なく、連続オンコマンド運用を終了しました。

(井上 浩三郎)