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ISASコラム

第44回
火星探査機「のぞみ」その1

(ISASニュース 2006年9月 No.306掲載)

のぞみ

第18号科学衛星PLANET-Bは1998年7月4日3時12分にM-Vロケット3号機によって内之浦から打ち上げられ、近地点約135km、遠地点約460km、軌道傾斜角31.1°の地球周回軌道にいったん投入され、続いて発射1225秒後にクリスマス島上空高度340kmにおいて第4段モーターに点火。予定通り、近地点約350km、遠地点約58万6000kmの月遷移軌道に投入されました。日本の惑星探査の本格的な幕開けへの期待と、「あなたの名前を火星へ」キャンペーンに応募した27万人の人々をはじめとする国民の期待を表現すべく、「のぞみ」と命名されました。

衛星の概要と運用

「のぞみ」には、理学の観点からは、火星上層大気と太陽風プラズマとのせめぎ合いを研究することを主目的として14の科学観測機器を搭載しました。工学の観点からは、今後我が国が惑星探査に本格的に取り組むに当たって必要な技術、例えば軌道制御、超遠距離通信、軽量・高機能な搭載機器、自律運用システムなどを確立することが目的です。

探査機の重量は540kg、そのうち推進剤が280kgを占めています。多くの国との協力関係を持つ国際ミッションで、アメリカ、ドイツ、スウェーデン、カナダ、フランスの各国が製作した観測機器を搭載しています。

追跡局は、臼田の64mアンテナおよび内之浦の34mアンテナ。データ処理はすべて相模原にある深宇宙管制局で行われ、相模原と臼田、内之浦との間は地上データ回線で結ばれています。このほかに、NASAのDSN(深宇宙ネットワーク)による追尾も加わります。

「のぞみ」運用では、地球を回る衛星と比べ、運用上特別な配慮が必要です。探査機への電 波の往復の遅れ時間が40分を超える時期があり、地球からのリアルタイムのコマンドは不可能になります。また、探査機が太陽の裏に隠される数週間は通信は途絶し、放置状態になります。このため機内で自律的な運用を可能とするインテリジェント化を行っています。

初期運用状況

内之浦局では、第1回の「のぞみ」からの電波を、日本時間7月4日13時34分に受信しました。太陽電池パドルの展開をはじめとして、すべてのシステムの動作は正常で、太陽電池の出力、衛星のスピンレートも正常でした。軌道制御は合計9回行い、遠地点は月の軌道を越える40万〜50万km前後、近地点は800〜1700km前後を保ち、いずれも正常に実施されました。そして9月24日16時23分に、第1回の月スイングバイを成功裏に行いました。スイングバイ時の最接近距離は4100km、その後の遠地点は171万kmになりました。1990年の「ひてん」以来蓄積してきた軌道制御技術が見事に開花したものです。

搭載観測機器のチェックと試験観測も順調に行われていきました。この間MDC(ダスト計測器)は、9月末までに星間塵によると思われるダストを十数個検出しました。MIC(火星撮像カメラ)は近地点通過の際に「地球と月のツーショット」を撮り、周辺減光、解像度などの詳細なチェックを行いました。このツーショットは一般の人たちの反響が非常に大きく、可視光のカメラを搭載する意味について、大いに自信を深めました。

「のぞみ」が撮影した地球と月のツーショット

第1回月スイングバイ以後衛星は順調に飛行していましたが、第2回月スイングバイの2日後、12月20日に行った地球離脱のための地球パワー・スイングバイで、「のぞみ」の運命を決する大事件が発生しました。スラスタバルブの不具合です。その詳細は次号で述べることにしましょう。

(井上 浩三郎)