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ISASコラム

第37回
磁気圏尾部観測衛星ジオテイル その2

(ISASニュース 2006年2月 No.299掲載)

ジオテイル

ジオテイル衛星は直径2.2m、高さ1.6mの円筒形で、姿勢をスピン(20rpm)によって安定に保つとともに、円筒部周囲に貼った太陽電池から必要な電力を供給する方式になっています。衛星重量は971kgで、その中には制御用のヒドラジン332kgと放射線シールド24kgを含んでいます。

搭載機器

日陰になると太陽電池からの電力を当てにできなくなるので、ミッション中の最大日陰に備えて容量19AHのバッテリを3台搭載しています。通信系としては、Sバンドの送信機に加えXバンドの送信機を持っており、65kbpsでリアルタイムデータを地上局に送ります。

搭載アンテナも、地上局のポインティングを可能にする工夫をしました。高利得アンテナを当初のオフセット・パラボラから変更し、Sバンド用にヘリカル・タイプ、Xバンド用にホーン・タイプを採用しました。それらは、機械的デスパン機構の上に搭載されています。

観測機器は、磁場、電場、プラズマ、高エネルギー粒子、およびプラズマ波動の測定装置を搭載することにしました。

第一次計器合せ・噛合せ試験

思い出すのは、打上げの2年足らず前、1990年11月26日から翌年の3月19日まで約3ヶ月半にわたって行った第一次計器合せ・噛合せ試験です。それまでの衛星とは異なるジオテイル衛星に特有の事柄としては、次のようなことが挙げられます。

第一に、従来の宇宙研の衛星に比べてサイズが1.4倍程度もあることです。これまでは作業をする人の手の届く範囲にある衛星ばかりでしたが、それを超えると衛星の組上げ手順にいかに大きな影響があるか、あらためて実感させられました。そして試験に要する時間も従来以上に必要になることも、よく分かりました。

第二に、速度修正能力800m/sを持つRCS(Reac-tion Control System)の組上げも、従来にはなかったスケールのもので、このサイズに関連して種々のテストへの影響が生じました。

第三に、科学観測のための電磁干渉対策や汚染防止対策が特に重要になることが、設計の最初の段階から予測されました。そこで、サブシステムを単体で試験するとか、計装配線のルートまで細かくチェックするなど、綿密な対応が計られました。

電磁干渉対策

磁気シールドルームでの電磁干渉試験

科学衛星に搭載されるプラズマ波動観測装置では、必ずほかの搭載機器からの干渉ノイズが問題となります。ジオテイルよりも前、1989年に打ち上げられた「あけぼの」衛星では、打上げに先立って、各機器からの干渉ノイズ源を特定し、その対策についてかなりの努力が払われました。それによって、電磁干渉適合(EMC:ElectroMagnetic Compatibility)試験やノイズ軽減に対するノウハウが蓄積されたのでした。

ジオテイル衛星では、この経験を踏まえて、わが国の科学衛星としては初めてEMCの規制レベルが設定されました。そして、システムレベルでのEMC試験に先立って各機器単体レベルでのEMC測定を行い、規定値を満足しないノイズ源の特定とその対策があらかじめ行われたのです。測定は相模原キャンパスの磁気シールドルーム内で行われました。

EMC測定に際しては、できるだけシールドルーム外部の影響を取り除かなければなりません。そのため、被測定機器に電源を供給するバッテリーや接続装置を、シールドルーム外部にあるデータ処理装置と電気的に分離する必要があります。そこで特別に光アイソレーターを新たに製作し用いました。

試験中に発生した電磁干渉の一例を紹介しますと、ラッチングバルブ(電磁弁)からの電磁干渉を受け、それを低減するために電磁弁に電磁シールドカバーを取り付けたところ、電磁弁が動かなくなりました。このときは電磁シールド再製作で解決しましたが、ほかにもいろいろと干渉低減の難しさを経験することになりました。

当時、電磁干渉の低減にご尽力された故山本達人先生は、『ISASニュース』GEOTAIL特集号で「電磁干渉とのたたかい」と題して、大変苦労してEMCを測定したことを語っておられます。

(井上 浩三郎)