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ISASコラム

第34回
X線天文衛星「あすか」 その2

(ISASニュース 2005年11月 No.296掲載)

あすか

「あすか」は軌道投入後,衛星の基本共通系統の作業を正常に終了し,姿勢制御,パドル展開が行われました。そして観測機器の高圧電源投入,CCD冷却系の確認,CCDカメラのふた開けなどを行い,観測態勢に入りました。

ノイズ低減の苦労

「あすか」衛星は「ようこう」衛星と同様,総合試験で電源ノイズ低減に多くの時間を費やしました。特に衛星の温度などアナログ信号を計測するハウスキーピング装置(HK)には電源からくるノイズが重畳し,その低減に苦労しました。温度を計測するセンサーにセンサーインピーダンス50オーム(2.5V)の張り付け型白金センサーを使用しており,センサー1個(1チャンネル)当たりの電流が1mAで,64チャンネルで計64mAが流れていました。そのためリターンのとり方によっては信号にノイズが乗りやすく,HKでは設計上共通リターンになっていたため,電源ノイズの影響が大きく出てしまいました。

このためコンデンサーを付けたセーバーコネクタを製作し,計装のコネクタとコネクタの間に挿入してノイズの低減努力が図られました。その効果は大きく,信号ノイズは劇的に低減されました。このコネクタを製作し,HKを担当された松下通信の古橋五郎さんは「現在では,センサーインピーダンスは1キロオームで作られているためノイズも少ないし,かつ測定時のみ電流を流すため消費電力も少ない」と,当時苦労したことを懐かしげに語っておられました。

姿勢制御チームの疲労の中での満足感

無事衛星軌道に投入した後,太陽電池パドル展開までの初期姿勢制御作業は緊張の連続でした。まずは,ヨーヨーデスピナによってスピンを落とし,磁気トルカと地磁気センサーで歳差運動を抑えた後4台のリアクションホイールを起動し,角運動量を機軸と直角方向に移し,衛星をフラットスピン状態になる軸変更制御を行いました。  この軸変更動作を行う前に,太陽角と通信条件から大きなマヌーバを伴う衛星スピン軸を変更する必要が生じました。定常運用姿勢制御のための運用ソフトは自動化され整備していましたが,初期運用のクリティカルフェーズの姿勢制御コマンドは手作業で作る必要があり,作業者にとって大きな負担になりました。

チーム一体になり懸命の努力で,太陽電池パドル展開に必要な姿勢条件に衛星姿勢を向けた後,無事太陽電池パドル展開が行われました。この間,緊張と連続作業のためメンバーの1人が貧血を起こすハプニングもありましたが,大事に至らず,皆で大変な作業が無事成功裏に終了した満足感に浸りました。

当時,姿勢制御を担当されたNECの前田健さんは,「大変しんどい作業で疲れましたが,衛星主任の田中靖郎先生から『無理をかけました』と,ねぎらいの言葉を頂き感激しました」と語っておられました。

(井上 浩三郎)

「あすか」搭載観測機器