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ISASコラム

第31回
太陽観測衛星「ようこう」その2

(ISASニュース 2005年7月 No.292掲載)

ようこう

バッテリの温度管理

「ようこう」のバッテリ温度には、地上においては30℃以下、軌道上では10±5℃という厳しい条件が課せられたため、管理には細心の注意が払われました。

(1)ドライアイスを積んで内之浦へ衛星輸送

衛星の輸送は、バッテリ温度を30℃以下にするために特別のスケジュールが組まれました。当時、衛星システムを担当され、輸送に立ち会われたNECの松井さんは、そのときの様子を次のように語っておられます。

「8月9日、出発に先立ち、衛星輸送コンテナの外パネルに断熱材を貼り、その上からアルミ蒸着マイラーシートを貼りました。外パネル内にドライアイスの箱を設けた状態で、トラックは夕方、相模原を出発しました。翌日の日中、衛星は三菱重工神戸製作所の倉庫で過ごしました。その日の朝、新幹線で神戸に到着した小川原先生、私、筒井さん(NEC)の3人は、衛星の温度を夕方まで監視しました。そしてドライアイスを補充した後、夕方出発するトラックを見送り、私たちは飛行機で鹿児島に飛びました。先に到着していた加藤輝雄さん(宇宙研システム担当)と神戸から来たトラックと落ち合い、温度を監視しながら内之浦まで併走し、8月11日9時に実験場に到着しました」。

暑い中、苦心して運んだことが伝わってきます。

(2)打上げ寸前までノーズフェアリングの外側に冷却用カバーを装着

夏の打上げでフェアリング内部の温度が上昇するのを防ぐため、フェアリングの外側に打上げ寸前まで冷却用カバーを取り付けるという前例のない方策がなされました。これは衛星内部のバッテリを保護するためで、打上げ飛翔中の放電・充電による温度上昇が30℃を超えないようにするためです。もう一つ、バッテリの温度を上げたくない理由としては、もしバッテリ温度が26〜28℃になると、温度トリクルが働いて充電を停止するようになっているためです。これを防ぐため、打上げ時は念のためdisableにしました。

発射寸前まで頭胴部を冷やした冷却用カバー(ランチャーに取り付けられた白いカバー)

射場の衛星最終動作試験で発生したトラブル

宇宙研での長い試験を終えて内之浦観測所の衛星整備センターに運ばれた衛星は、ロケットに結合する前に最終動作チェックを受けます。このチェックの際に、日英米協力で開発したブラッグ結晶分光計(BCS)の2系統ある電源リレーの1系統がオンにならないという不具合が発生しました。早速、検討グループによる原因究明が始められました。急きょイギリスからも製作担当者に飛んできてもらい、再現チェック、現象の把握など、3日間にわたり試験と検討がなされました。

その結果、 10回に1回の割合でオンにならないことがある、いったんオンになるとオフのコマンドを送らない限りオフにならない、また機械環境試験でリレーが反転したことがなく、従って打上げ時にリレーが反転することは考えにくい等々のことが分かりました。そのため、当初オフで打ち上げる予定をオンでの打上げに変更し、このままで打ち上げることに決定しました。この決定までには大変な議論がなされた、と伺っています。4日遅れ(BCSとしては3日)の打上げでしたが、軌道上ではまったく問題なく、またオフすることもなく、長年にわたり多くの観測データが取得されました。この観測装置を開発担当され、また、長い間衛星運用に携わってこられた渡邊鉄哉先生(現・国立天文台教授)も、肩の荷を下されたことと思います。

(井上 浩三郎)