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ISASコラム

第24回
超新星からのX線をとらえた「ぎんが」その1

(ISASニュース 2004年10月 No.283掲載)

ぎんが

「はくちょう」、「てんま」に次ぐX線天文衛星ASTRO-Cは、1987年2月5日15時30分、M-3SIIロケット3号機によって打ち上げられ、近地点高度505.5km、遠地点高度673.5km、傾斜角31.1度、周期96.5分の軌道に投入され、「ぎんが」と命名されました。

衛星の概要

この衛星の総重量は420kgで、太陽電池の発電能力は最大500ワット。電源系、データ処理系、姿勢系および姿勢制御系、通信系、観測系の各機器で構成されています。

特に、大型化と観測の精密化に伴ってバブルメモリデータレコーダ(BDR)、CCDスターセンサー(STT)、CCD太陽センサー(NSAS)を初めて採用。科学衛星として初めての3軸姿勢制御で、Z軸回りの制御はモーメンタムホイールで、Z軸に垂直方向の制御は磁気トルカーの励磁で行いました。STTの星像による姿勢の決定精度は0.01度です。

ジャイロのドリフトはSTTから得た星の位置によって補正。初めて本格的なデータレコーダとして搭載した41.9メガビットのBDRは、140kbps以下の任意の速度で再生でき、従来と異なって可動部がないため姿勢の外乱がないという利点を持っています。

通信系では、コマンド送信波として従来のVHFに代わってSバンドを使用。観測器は、大面積比例計数管(LAC、英国と協力)、全天X線監視装置(ASM)、ガンマ線バースト検出器(GBD、米国と協力)の3種類です。

大面積比例計数管(LAC)8個搭載。この種の観測器として世界最高感度を持つ。

機器の動作状況

衛星を軌道投入後、第3段モータを分離し、続いてヨーヨーデスピナによりスピンを毎分約10回に低減させました。さらに、今回初めて採用した4枚の太陽電池パドルの同期展開も正常に動作し、その結果スピンは毎分3.5回となりました。各機器の動作は、すべて正常でした。

2月6日から3週間かけて姿勢制御の動作確認に入り、一連のチェックを行いましたが、いずれの動作も設計通りの性能を示しました。電源系と通信系についても同様でした。

打上げ後の姿勢制御の試験も終わりに近づき、2月24日に観測機器の高圧電源投入を行った直後、小田稔先生から「大マゼラン雲に超新星(SN1987A)出現」の報が入り、2月26日、急きょ観測機器は観測態勢に入りました。

私たちの銀河系のすぐ近くの銀河における超新星の出現は、1604年以来のことで、世界中の天文学者を興奮させ、「ぎんが」にとっては千載一遇のチャンス。打上げ直後の出現は幸運な出来事でした。小田先生は、「小型でも1年に1機のペースで粘り強く科学衛星を打ち上げ続けている宇宙研の戦略の勝利だ。アメリカの物理学者Freeman Dysonも議会で“Small but quick is beautiful.”と言って日本のやり方を絶賛している」と評価されました。

標準的X線源であるカニ星雲による較正と並行して観測が行われ始めたわけですが、較正試験の方は3月中に正常に終了。3月25日から稼働を始めたASMが2個のX線新星を発見、GBDも最初のバーストを3月4日に観測して、順調な滑り出しを見せました。週に1度くらいの割合で大マゼラン雲の超新星の監視を続けるうちに、9月に入ってそれまでに取得したLACのデータを厳密に整理・検討した結果、超新星からと思われるX線を確認しました。同じころ、岐阜県の「カミオカンデ」がこの超新星からのニュートリノを検出したことが、小柴昌俊先生のノーベル賞受賞につながったことはすでに有名です。

(井上 浩三郎)

大マゼラン雲中の超新星1987A
以前に撮影されたもの(左)と、同じ視野にはっきりと見える超新星(1987年2月27日、オーストラリア・サイディングスプリング天文台撮影)。