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ISASコラム

第19回
中層大気観測衛星「おおぞら」

(ISASニュース 2004年5月 No.278掲載)

おおぞら

EXOS-C衛星は1984年2月14日17時00分、M-3Sロケット4号機によって打ち上げられ、遠地点高度865km、近地点高度354km、軌道傾斜角74.6度、周期96.9分の準極軌道に投入され、「おおぞら」と命名されました。

大気については、それまで地表に近い高度10kmから100km程度までの中層大気の観測と研究が取り残されていました。1970年代を経て、中・上層大気の観測が地上からのリモートセンシングで行われるようになり、中層大気中の大気組成や温度の測定が可能になってきました。このようなさまざまな手段による観測に室内実験やデータ解析などを総合して、国際的に中層大気の研究を進めようという計画が各国の研究者間で検討され、「中層大気国際協同観測計画(MAP)」が1982〜1985年の間実施されることになりました。

「おおぞら」は、そのMAP計画への積極的な協力の一環として、全地球的な中層大気の観測を行うために計画されたものです。データ受信は、内之浦(KSC)だけでなく、南極の昭和基地とスウェーデン北部のエスレンジ基地でも1日5回行われました。これは、データ取得率を上げるためと、オーロラ現象の解明に好都合なことから選ばれたものです。

衛星軌道投入で重要な役割を担う衛星タイマーの試験風景
後川昭雄先生(右)と古橋五郎さん

中層大気の観測に大きな成果

後述するように、打ち上げてすぐバッテリーの劣化というアクシデントに遭遇しましたが、関係者の粘り強い努力によって4年にわたり多くの貴重な観測データを取得し、中層大気の観測で貴重な成果をもたらしました。
(1)中層大気中の微量成分による太陽光の吸収スペクトルの観測
(2)極域および南太平洋地磁気異常帯上空における高エネルギー粒子の観測
などが主なものです。特に大きな成果の一つは、磁場に関する電子温度の非等方性を確認したことであり、これにより電子温度測定に関するいくつかの混乱を説明できるようになりました。

高温によるバッテリーの容量低下

軌道投入直後の全日照とコンタミによる衛星表面の分光特性変化が重なり、予想をはるかに超える高温にさらされたバッテリーの容量が、定格8AHに対し1.6AHまで劣化する不具合が発生しました。この劣化により衛星の運用が大変な制約を受けるため、地上でのシミュレーションなどいろいろとその回復方法を試みましたが、有効な方法は見つかりませんでした。衛星運用管理を担当された中村良治先生は「容量が5分の1に減少したバッテリーが過放電にならないように、残存容量を注意深く計算しながら観測装置をオン・オフして運用しました」と、当時の苦労を語っています。

役割を終えて太平洋上空で消滅

「おおぞら」は、日本時間1988年12月26日14時11分53秒(周回数2万6799)、KSCでの受信を最後に、再びその上空に帰って来ることはありませんでした。計算によれば、同日の日本時間23時39分、ニューギニア上空の高度90kmにおいて消滅したと思われます。

(井上 浩三郎)

上は太陽光の地球大気による散乱・吸収量を測定するエアロゾルオゾン観測装置(ALA)、下は大気周縁赤外分光器(LAS-S)。