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ISASコラム

第16回
試験衛星「たんせい4号」

(ISASニュース 2004年2月 No.275掲載)

たんせい4号

1980年2月17日9時40分、M-3Sロケット1号機によって打ち上げられた試験衛星「MS-T4」は、近地点高度521.7km、遠地点高度605.6km、軌道傾斜角38.7度の軌道に投入され、「たんせい4号」と命名されました。

M-3Sロケットは、M-3Hの第1段にTVC(推力方向制御)装置を取り付け、日本で初めて全段にわたって飛行制御のできるロケットとして設計・開発されたものです。この衛星は、打上げ性能の確認と、それ以降このロケットで打ち上げられる予定の科学衛星に必要な数々の工学技術や搭載機器の試験が目的でした。

実験および試験状況

軌道投入後、衛星は正常で、第1周でヨーヨーデスピナを起動しスピン数を毎秒2.1回から毎分18回に落とした後、初めて搭載された太陽電池パドルを正常に展開しました。その後、磁気姿勢制御、ホイール姿勢制御、レーザ反射器による追尾、レーダトランスポンダによる追尾、MPDアークジェットによるスピンアップおよび磁気バブルデータレコーダの記録・再生などの各種工学実験や、太陽ブラッグX線分光器による太陽フレアの観測などを行い、良好な結果を得ました。

レーザ反射器

その他、初めて搭載したスターマッパーやSバンドテレメータの飛翔試験、新しい形式の太陽電池の性能評価、熱制御用材料の性能評価、電源系管理用AH積算計の飛翔試験は、機器の動作も正常で、得られた成果はその後のミッションに有効に生かされました。

宇宙研独自の動釣合試験方法の考案

「たんせい4号」は、宇宙研で初めての太陽電池パドル付きスピン衛星であるため、真空での動釣合をどのように推定するかが重要な課題でした。種々検討した結果、異なった密度の気体の中で衛星を動釣合試験機に載せて回転させ、さまざまな気体密度で衛星の動不釣合ベクトルを測定することによって、真空中のベクトルを求めました。当時試験を担当した大西晃さんが、衛星を入れたブースの中をヘリウムガスで置換し、ヘリウムやヘリウムと空気の混合気体を用いる測定を苦労しながら行っていたのが思い出されます。

ブースの中にヘリウムガスを入れての動釣合試験

筑波宇宙センターでの磁気試験

打上げ前は、筑波宇宙センターの磁気試験設備を借用し磁気試験を実施しました。外乱を防ぐため、主コイルから半径300mまでが立ち入り禁止ゾーンになっていました。宇宙研の衛星を筑波まで運んで試験をした初めてのケースでしたので、いろいろな苦労がありました。視察・調査を1次噛み合わせと総合試験の間で行い、試験は1979年12月に実施しました。

ドームの中の磁気試験設備(当時の宇宙開発事業団筑波宇宙センター)

試験は無事終了しましたが、当時試験を担当されたNECの西さんは、「真夏の暑いときの調査では、短時間で長い回線のロスを測ったり、本試験では鉄分厳禁でズボンのベルトを外して実施しました」と、大変苦労した様子を語っています。

「たんせい4号」は、数多くの新しい実験を精力的に実行し、期待通りの成果を挙げ、その後の「ひのとり」「てんま」「おおぞら」などへの明るい見通しを立てました。宇宙研の衛星を大きく飛躍させるきっかけとなる試験衛星だったといえるでしょう。

(井上 浩三郎)