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ISASコラム

再び宇宙大航海へ臨む「はやぶさ2」
第10回

Kaバンドアンテナと通信

「はやぶさ2」プロジェクト 通信系担当
戸田 知朗
(ISASニュース 2014年11月 No.404掲載)

 「はやぶさ2」は、2010年に帰還を果たした初号機「はやぶさ」をベースに開発されましたが、外観上の変化として際立っているのが2枚の円板の存在です。なくなったものに注意すれば、それらは新しいアンテナに違いないと気付く方は多いはず。ご明察です。でも、1つであったものが2つに。「はやぶさ2」からは、初号機でも使用したXバンド(約8GHzの周波数で振動する電磁波)に加え、Kaバンド(約32GHzの周波数の電磁波)も利用することになりました。

 「はやぶさ2」のXバンドのアンテナは、初号機のようなパラボラアンテナではなく、金星探査機「あかつき」から採用された軽量で高効率な送信専用の平面アンテナを使用する予定でした。そのため、Kaバンドの送信アンテナも探査機全体のバランスから、同じ形状・寸法の平面アンテナとすることに決まりました。Xバンドでの開発実績から、Kaバンドへの展開も技術的に難しくないと考えたのです。このようにして、双子のような2台のアンテナは、「はやぶさ2」の個性的な外観に一役買うこととなったわけです。実際、この双子は熱計装をかぶってしまうと、どちらがどちらか区別するのも大変です。見分け方は、探査機のサンプル回収カプセルを正面に見て、左側がXバンドのアンテナ、右側がKaバンドのアンテナです。

図1 「はやぶさ2」上に並んだXバンドアンテナ(左)とKaバンドアンテナ(右)
図1 「はやぶさ2」上に並んだXバンドアンテナ(左)とKaバンドアンテナ(右)


 「はやぶさ2」でKaバンドを利用する理由は、鋭い指向性(電波をビームにして飛ばすときにエネルギーの集中する程度が高いことを表します)のアンテナ同士を用いる通信では高い周波数を利用するほど効率よく信号を伝送可能になるからです。「はやぶさ2」では、初号機のとき以上にたくさんの観測データを地上へ送り届けたいのです。今回、Kaバンドのアンテナだけでなく、Kaバンドの周波数を合成する装置、Kaバンドの信号を増幅する装置などが併せて開発され、「はやぶさ2」はKaバンドで通信する機能を備えました。Xバンドだけのときに比べると、条件によっては4倍以上のデータを送り届ける手段となります。

 ただし、Kaバンドを利用したくても、臼田宇宙空間観測所の64m地上局(初号機の運用で活躍しました)は高い周波数に対応できず、頼ることができません。我が国唯一の深宇宙探査局でKaバンドが使えないわけですから、国際協力が必要になりました。海外では、米国航空宇宙局(NASA)をはじめ欧州宇宙機関(ESA)でも、Kaバンドに対応する地上局を地球規模で熱心に展開しています。「はやぶさ2」が受ける国際支援の中で重要なものの一つが、このKaバンドの利用です。これら海外局を使って、「はやぶさ2」ではKaバンドの恩恵を享受する計画です。

図2 臼田64m局と「はやぶさ2」のXバンド/Kaバンド運用を支える海外の深宇宙局(DSN)
図2  臼田64m局と「はやぶさ2」のXバンド/Kaバンド運用を支える海外の深宇宙局(DSN)


 いつの日か、国内にもこのKaバンドを受けられる探査地上局ができるでしょうか? 深宇宙探査におけるKaバンド活用の重要性は、ずっと以前から指摘されてきました。臼田64m局の後継は、きっとKaバンド対応の局になるといわれています。しかし、KaバンドはXバンドに比べて取り扱いが難しく、その恩恵を享受するためにはさまざまな条件を克服しなくてはいけません。その一つがKaバンドの信号を弱らせる湿潤な気候です。国内で環境が良い場所を選んでも、年間を通じて見ると、海外機関の地上局の立地に比べてあまり優れていません。例えば、時々刻々の気象条件の変化にも臨機応変に対応するような独自の仕組みが必要かもしれません。先を行く海外機関もKaバンドの取り扱いには手を焼いているのですから、私たちが臼田64m局の後継の開発に取り組むときには十分な備えをして臨む必要があります。Kaバンドは、努力しなければ味わえない果実です。

 「はやぶさ2」でKaバンドの最初の試験電波を受けられるのは、打上げからひと月ほどしてからといわれています。私たちの局で受けられないのは残念ですが、NASAの深宇宙局が万全の構えで待っていてくれるでしょう。そのとき、私たちの目にはもちろん見えませんが、確かに「はやぶさ2」が双子のアンテナを地球へ向けて話し掛けてくれているはずです。そうやって「はやぶさ2」が先鞭をつけたKaバンドの技術は、より洗練されて次の探査計画へ受け継がれていきます。


(とだ・ともあき)