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ISASコラム

再び宇宙大航海へ臨む「はやぶさ2」
第9回

小型ローバMINERVA-II

「はやぶさ2」プロジェクト MINERVA-II担当
吉光 徹雄
(ISASニュース 2014年10月 No.403掲載)

 「はやぶさ2」は、MINERVA-II(ミネルバ2)と呼ばれる合計3台の日本製ローバを搭載しています。2台は宇宙研が、もう1台は東北大学を中心とする大学コンソーシアムが製作し、いずれも工学的な実験機として「はやぶさ2」の予算とは別枠で開発しました。

 初代「はやぶさ」のときも筆者らが開発したローバMINERVAを搭載しましたが、「はやぶさ2」に搭載したローバは、そのときの経験をもとに、完全に新規に設計・開発しました。「はやぶさ」と「はやぶさ2」では目指す天体が違うので、天体表面における重力や太陽エネルギー密度、熱的条件が異なります。まったく同じローバを製造すればいいわけではありません。

 ローバはいずれも1kg級と非常に小型なため、地球と直接通信するのではなく、母船である「はやぶさ2」と通信を行います。このためローバだけでなく、探査機側の中継器(OME-E)、また中継器とローバとの通信に使用するアンテナ(OME-A)も開発しました。

中継器OME-EとヘリカルアンテナOME-A

 OME-Eが、探査機のネットワークバスとローバの間でコマンドやテレメトリといったデータの中継を行う装置です。OME-Eは、ドイツから提供されて「はやぶさ2」に搭載した小型着陸機MASCOTとも通信を行います。

 アンテナのビームパターンは、1km弱の小惑星を10km遠方から見たとき、ローバが小惑星のどこにいても通信可能になるという条件で設計しました。また回線の成立性は、探査機と小惑星の距離を20kmと仮定して確かめています。

 OME-Eとローバ間は無線による通信で、探査機の下面に搭載されたヘリカルアンテナ(OME-A)を使用します。地球からローバ宛てに送ったコマンドは一度OME-Eに蓄えられ、ローバに向けて送信されます。

 一方、ローバから受信した観測データなどのテレメトリは、OME-E内のメモリに保存し、探査機の運用モードに応じて、探査機のネットワークバスに送出します。

 探査機のデータ処理系とのインターフェースはPIMと呼ばれるネットワークバスですが、ローバが取得したデータを高速で探査機に渡すため、PIM史上最速のデータレート(40kbps)を使う運用モードを用意しました。この探査機を最後に引退するはずのPIMには、気の毒な負荷を掛けました。

ローバ分離機構

 3台のローバを格納する2つのコンテナを探査機の下面に搭載しています。1つのコンテナに宇宙研が開発したほぼ双子のローバ(Rover-1A、1B)、もう1つのコンテナに3台目のローバ(Rover-2)が入っています。ローバを放出するチャンスは2回あることになります。

 コンテナからローバを分離させるためのメカニズムは、ばねでカバーを押し出すというシンプルなものです。この分離メカニズムの開発で注力したことは、ローバとカバーを異なる方向に分離させる機構を1つの動作で実現することでした。カバーはドアが開くように開いた後、拘束がなくなった段階で斜め方向に飛んでいき、その中からローバが真っすぐ進んでいきます。

 この新開発分離メカニズムは、ドイツのブレーメンにある落下塔を用いた微小重力実験で確認しました。落下塔では1回の落下で4.7秒の微小重力状態が得られます。そのほか、フランスのボルドーから飛行機に乗って、別の開発項目に関する微小重力実験も実施しました。飛行機実験では1フライトで最低33回、放物線軌道を描き、1回当たり20秒強の微小重力状態が継続します。3日間連続して搭乗しました。

 「はやぶさ」のころに日本にあった高さ100m級の無重力落下塔は数年前に全滅しましたが、ドイツとの協力関係のおかげで何度もヨーロッパに出向いて微小重力実験ができたことは、開発の苦しい道のりの中で楽しかったことの1つです。

図1 中継器OME-E(左)とヘリカルアンテナOME-A(右)
図1 中継器OME-E(左)とヘリカルアンテナOME-A(右)


図2 ローバ分離メカニズムの無重力実験の様子
図2 ローバ分離メカニズムの無重力実験の様子

(よしみつ・てつお)