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ISASコラム

再び宇宙大航海へ臨む「はやぶさ2」
第3回

イオンエンジン・ 化学推進の改良点

「はやぶさ 2」プロジェクト イオンエンジン担当 西山和孝
「はやぶさ 2」プロジェクト 化学推進担当 森 治 
(ISASニュース 2014年3月 No.396掲載)

 今回はイオンエンジンと化学推進について紹介します。イオンエンジンは、地球と小惑星との往復航行を、化学推進の10分の1という少ない推進剤消費で可能にします。化学推進は、イオンエンジンの1000倍以上の推力を発生させることができ、打上げ直後の姿勢制御や軌道の微調整、小惑星周辺での探査機位置制御や小惑星表面への離着陸時などに使用されます。このように性質が異なる二つの推進系が役割分担して「はやぶさ2」の原動力となるわけです。

 「はやぶさ2」搭載のイオンエンジンは、「はやぶさ」当時の設計を基本的に踏襲しています。「はやぶさ」では2つの大きなエンジントラブルが生じました。一つは初期に発生したイオン源1基のプラズマ点火不良であり、もう一つは1万時間から1万5000時間の運転後に発生した中和器3基の劣化や故障です。「はやぶさ2」では、これらの不具合の原因を推定した上で対策を講じました。前者に対しては、イオン源の推力発生効率の向上と点火確実性とを両立するように各部の調整作業を入念に実施しました。後者に対しては、中和器の長寿命化のために放電室内壁をプラズマから防護し、電子放出に必要な電圧が低減されるように磁場の強化を行いました。試作中和器で実使用環境を忠実に模擬した毎週1回のオンオフによる高温・低温のサイクルを印加する耐久試験を2012年夏から実施し、2013年度末には「はやぶさ2」で要求される1万4000時間の運転を無事に達成しました。今後も2014年末の2万時間を目指して試験を続行する計画です。

図1
図1 真空チャンバーの中で運転中のイオンエンジンフライトモデル
口径10cmのイオン源の855個の小さな穴から秒速47kmで噴射されるキセノンイオンビーム(左から右上方向)と中和器プラズマ(イオン源の左上)の発光。

 満身創痍の「はやぶさ」の姿勢制御に役立った「キセノンガスジェット」や、異なる系統のイオンエンジン間で中和器電流を融通し合う「クロス運転」、通信条件悪化時の「1ビット通信」などの機能も健在で、一部ではさらなる使い勝手の向上や堅牢性強化を行っています。不具合対策以外の変更点としては、1台当たりの最大推力を従来の8mN(ミリニュートン)から10mNに増強することに成功しています。これは「はやぶさ」以降の研究成果を反映し、イオン源内のキセノンガス噴射口配置と流量配分、イオン加速用電極の穴径・板厚などの小さな設計変更だけで実現しました。

 「はやぶさ2」の化学推進は「はやぶさ」同様、燃料と酸化剤を用いる2液式で20Nの推力を出すスラスタが12基搭載されています。「はやぶさ」では姿勢制御装置であるリアクションホイールが小惑星到着直前と直後に1つずつ故障したため、化学推進系は小惑星滞在時に、位置制御だけでなく、短パルス噴射による姿勢制御も担いました。しかし2回目のタッチダウンを成し遂げた直後に燃料が漏洩し、その後配管が凍結したこともあり、化学推進は2系統とも使用できなくなってしまいました。「はやぶさ2」ではこの漏洩原因として考えられる項目に対してすべて対策を施してあります。例えば、バルブに異物が詰まることがないよう、清浄度管理を徹底すると同時に気密試験を強化しました。配管などの溶接失敗を避けるため、溶接箇所を最少化し、溶接プロセスも改善しました。また、絶縁不良が発生しないよう、推薬弁電線は信頼性の高いコネクタを介してつなぐこととしました。運用についても見直し、スラスタの作動回数を常時モニタできるようにしています。さらに、「はやぶさ」で2系統の配管が凍結したことを踏まえ、配管のルーティングを分けて、独立に熱制御を行う設計としました。

図2
図2 化学推進系フライトモデルの慣らし燃焼の様子
連続燃焼ではスロート部が1000℃以上となる。

 化学推進系は「はやぶさ」以外のプロジェクトでも多数の教訓が得られていて、「はやぶさ2」に広く反映されています。特に金星探査機「あかつき」の周回軌道投入失敗に係る原因究明と対策を受け、燃料と酸化剤を押し出す高圧ガスの系統を完全に分離しました。「はやぶさ2」では「はやぶさ」で急きょ実施した短パルス噴射はもちろん、衝突退避運用で長時間の連続噴射も達成し、地球帰還まで確実に任務を果たすべく開発を進めています。

(にしやま・かずたか、もり・おさむ)