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ISASコラム

第16回:宇宙の宝石屋さんたち 〜ペリドットをめぐる話〜

(ISASニュース 2006年03月 No.300掲載)

 ペリドットという宝石をご存じでしょうか?8月生まれの人なら誕生石なので知っているかもしれませんね。オリーブ色のこの宝石は「かんらん石」という鉱物の結晶で,地球内部のマントルにたくさん含まれている物質なのだそうです。地表にもこの宝石が露出している場所があり,例えば,すばる望遠鏡のあるハワイ島にもグリーンサンドビーチというペリドットを含んだ緑色の砂浜があります。

図1
図1 地上にあるペリドット(かんらん石)の結晶

 実は,この宝石を気前よく宇宙にまき散らしている天体がいるのです。それは彗星です。もう10年ほど前になりますが,ヘール・ボップ彗星がやってきました。あの勇姿を肉眼で見て感動された方も多いでしょう。筆者もピカピカの大学1年生で,この彗星を見るために夜な夜な遠出をしたのを思い出します。彗星はよく,“汚れた雪だるま”といわれます。太陽に近づくと,太陽光線で雪が融けて,“汚れ”と一緒に宇宙にばらまかれます。これが彗星のシッポとして見えるのですが,実はその“汚れ”に,この宝石が含まれているのです。ただし,目にも見えないような小さな粒ですが……。ヘール・ボップ彗星が現れたのは,幸運にもヨーロッパの宇宙赤外線天文台ISOが観測を行っていたときでした。この観測で,彗星が宝石をまき散らしていることがはっきりと分かったのです。

 ところで,彗星によっては,宝石を持っている証拠を見せないものもいるのです。しかし最近,NASAのディープインパクト計画が,そのような天体の一つ,テンペル第1彗星に弾丸を撃ち込んでみました。すると,中にたくさんの宝石を隠し持っていることが明らかになりました※。というわけで,思ったよりも宝石を持つ彗星は多そうですね。

 以上の話は赤外線観測による宝石探しについてでしたが,つい先日NASAのスターダスト計画が,本物の彗星のちりを持ち帰りました。現在分析が進められているので,ペリドット以外の宝石もたくさん見つかるかもしれませんね。結果が楽しみです。

 さて,彗星には結構含まれていそうなペリドットですが,実は彗星や惑星の原材料となるはずの宇宙空間に漂うガスやちり(星間物質)にはほとんど含まれていないことが知られています。では,彗星のペリドットはどこから来たのでしょうか? ここ10年の赤外線観測の進展から,彗星のペリドットの起源は,46億年前に太陽系ができたときにさかのぼることが分かってきました。宇宙には今でも星や惑星,彗星が作られている場所があるので,そこを観測すると46億年前の太陽系が作られた状況を調べることが可能です。観測を行ってみると,惑星や彗星が作られている場所にペリドットが含まれているものがいくつも見つかってきました。図2に示してあるのは,そのような惑星や彗星の形成現場(原始惑星系円盤という)の赤外線スペクトルです。ヘール・ボップ彗星の赤外線スペクトルと,うり二つですよね。このことから,彗星に含まれるペリドットが,原始惑星系円盤で作られたのだろうということが分かります。では,どのようにして原始惑星系円盤でペリドットが作られたのでしょうか? 今,世界中の研究者がそれを一生懸命調べているところです。


図2
図2 ヘール・ボップ彗星と原始惑星系円盤を持つ星の赤外線スペクトル
(C)ESA

 ペリドットは,このほかにも死にゆく星や,最近は一部の銀河からも見つかっています。宇宙にはいろいろな宝石屋さんがいるんですね。地球の宝石屋さんでペリドットを見つけたら,そんな話を思い出していただけると幸いです

(ほんだ・みつひこ)