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ISASコラム

最終回:イプシロンロケット開発を支える情報システム 曽我 みどり イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2013年3月 No.384掲載)

はじめに

 これまでの連載でご紹介してきたように、イプシロンロケットは未来を切り拓く次世代の宇宙輸送システムとして、その開発の中でさまざまな挑戦的取り組みを推進しています。開発効率の抜本的な向上を目的とした新たな情報システムの開発もその取り組みの一つです。連載の最終回は、この情報システムについて説明します。

情報システムの狙い

 ロケットシステムは、数十万点を超える構成要素で成り立つロケットと、ロケットの製造・組立て・点検・打上げ、さらに地上装置類・設備など広範にわたるさまざまなサブシステムを組み合わせた巨大システムです。そのため、関係する人員や技術情報が膨大、サブシステム間のインターフェースが複雑という特徴を有します。また、地理的に分散した拠点で複数メーカーの協働によって開発が行われます。さらに開発期間が約3年と超短期です。このような厳しい状況を打開するため、IT技術を駆使して、技術情報に対するアクセス性、入手性を大幅に向上させ、全体を把握しやすく、開発効率を抜本的に向上させるべく、イプシロンロケット開発プロセス管理システム(MIDLEE)を開発しました。

MIDLEEの特長

 MIDLEEの主な特長は次の通りです。
  1. 複数種類の技術情報間の関連付け(ひも付け)機能。これにより要求仕様とその根拠の関連付けや設計入力情報と出力情報の関連付けができ、情報から情報へひもをたどっていくように関連情報の確認が可能となります。
  2. 各拠点で作成された技術情報および 1.のひも付け情報を地理的に分散した拠点に安全に送信。
  3. ネットを介したパソコン、インターネットエクスプローラーなどのブラウザで情報にアクセス可能。

関連付け機能による技術情報の体系化

 ロケット開発をシステム工学的な観点で見ると、システム要求をサブシステム要求に分割し、各要求仕様に対する検証結果の妥当性確認をサブシステム検証からシステム検証まで統合していくという一連の作業について、一貫性を確保した上で的確かつ迅速に実施することが鍵となります。

 MIDLEEでは、文書単位で情報間の関連付けができることに加え、必要に応じその粒度を文書内の項番レベルまで分割してひも付けることができます。これにより、前述した要求から検証結果まで容易に追跡することが可能となります。システム要求/仕様書と、システムを構成するサブシステムの開発仕様書/製品仕様書とのひも付けなどがその代表例です。このひも付けでは、MIDLEEの「構造リンク」という機能を用います。構造リンクの最大の特徴は、参照・引用された側の情報が参照・引用した側の情報を認識できることです。また、一度関連付けをすれば、それ以降の改訂においても、その関連付けは保持・継承されます。さらにMIDLEEは、離れた拠点に設置された各組織のサーバーを連携して構成するシステムです。通常、異なるサーバー間では切れてしまうリンクも、UUIDというユニークなID方式を採用することで、組織間でもリンクを共有でき、組織をまたがってリンクをたどることができます。例えば設計を変更する場合、その設計を根拠とした仕様箇所を瞬時に把握でき、設計変更前に確実かつ効率的に仕様に及ぼす影響を検討することが可能となります。ロケット開発では、多岐にわたるシステム構成の関連性を認識し、うまく全体の最適化を図ることが必要です。MIDLEEを活用することで、その行為を瞬時に適確に実施することが可能となるのです。


最後に

 これまで15回にわたりイプシロンロケットに関する連載を掲載してまいりました。本年夏期の試験機打上げに向け、関係者一丸となって頑張っていきますので、応援よろしくお願い致します。

図 MIDLEEの関連付け機能

(そが・みどり)


参考文献: 福添ほか、イプシロンロケットの情報化システムの開発、日本航空宇宙学会誌 Vol.60 No.8(2012)