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ISASコラム

第10回:イプシロンロケットの運用と施設設備(2)自動・自律点検システム 広瀬 健一 イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年10月 No.379掲載)

自動・自律点検システムの開発

イプシロンロケットの開発において掲げた以下の要求を実現するため、機体の点検作業において自動・自律点検機能を有する発射管制設備(LCS)を開発しました。

  • 1段射座据付けから打上げ翌日まで7日間で延べ150人
    →自動・自律点検を実現する設備とすること
     発射管制設備はモバイル化に対応可能なこと
開発に当たっては、地上設備のLCSと機体搭載機器である即応運用支援装置(ROSE)との適切な機能配分により、機体の健全性確認を行うこととしています。

自動・自律点検システムの目的

LCSで機体点検を自動・自律的に実施することで、以下の効果が期待できます。

  • 点検時間の短縮・オペレータ人員の削減
  • 人為ミス排除に伴う信頼性向上
  • 専門技術支援者の削減

自動・自律点検システムの概要

自動・自律点検システムは以下の機能を有しています(図)。

  • 自動点検
    点検手順の実行、機体データの閾値判定、点検記録
  • 自律点検
    動的アナログデータのトレンド評価
    故障部位の特定、対処の提案

自動点検機能

機体の点検作業は人工衛星のミッションに応じた機体形態により変更が必要となります。

これをソフトウェア化して変更管理を行い品質を維持していくことは、コンフィギュレーション変更管理・検証作業において手間を要します。そのため作業手順をソフトウェア・プログラムとはせずに、階層型データベースの構築によって体系的に管理することとしました。

機体情報(コマンド情報、モニタ情報など)と点検手順をデータベース化し、自動実行可能な作業手順書(プロシジャ)を構築することにより、プロシジャを順次読み込み/実行することで、点検を自動化することとしています。

自律点検機能

  • 動的アナログデータのトレンド評価
専門技術者によるデータレビュー作業の簡素化を目的として、モニタデータのトレンド評価を行うシステムを構築しました。

これは良好な波形データを正常データと定めてデータベース化し、評価対象波形と正常データ(基準波形)をパターン認識技術(マハラノビス・タグチシステム)で照合します。

パターン認識の結果、評価対象波形が「正常である」か「何らかの異常が発生している」かをLCSにおいて技術評価します。

  • 故障部位の特定、対処方法の提案
ロケットシステム、サブシステム、コンポーネントごとに故障解析を展開し、起こり得る故障モードを選出し、それらの故障が発生した際にデータ異常となるモニタ項目を整理しデータベース化します。

機体点検作業でデータ異常を検知した場合、異常モニタ項目の発生状況をデータベースに照合し、異常モニタ発生パターンが機器に対してユニークな場合は、故障発生部位が機器レベルで特定可能となります。

異常モニタ発生パターンが機器に対してユニークでない場合は機器レベルでの故障分離はできませんが、故障部位を切り分けるためのトラブルシュート手順を事前に登録しておくことで、トラブルシュート候補を自動点検システムにより提案し、早期のトラブルシュートを可能とします。


打上げ作業体制

自動・自律点検機能により、少人数での機体点検を可能にしています。

また、従来射場において実施していた専門技術者による技術的判断を、LCSをネットワーク化しロケットシステムメーカーへ機体点検データなどを配信することで、専門技術者が射場にいることなく打上げ作業が可能となります。


確実な打上げ成功を目指し

LCSの自動・自律点検システムの実力を十分に発揮するためには、効率的な作業手順の構築、正常データ(基準波形など)の蓄積が欠かせません。

これらのデータを得るためにも、イプシロンロケットの打上げ実績を重ねられるよう、確実な打上げ成功を目指します。


イプシロンロケットの自動・自律点検システム


(ひろせ・けんいち)