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ISASコラム

第9回:イプシロンロケットの運用と施設設備(1)全般 由井 剛 イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年9月 No.378掲載)

施設設備の開発目的

 イプシロンロケットはM-Vロケット同様、内之浦宇宙空間観測所(USC)で組立て、点検、打上げを行います。その際使用する射場の施設・設備は、新規開発するものとM-Vロケット設備を改修・流用するものがあります。

 新規開発あるいは改修する施設・設備には、イプシロン開発の目的の一つである運用の革新、つまり省人化、時間短縮、機動性、安全性の大幅な改善を実現するため進めているものがあります。プロジェクトの目標、ミッション要求、制約条件から、施設・設備への基本要求を以下のように定めました。

  • 1段射座据付けから打上げ翌日まで7日150人日
    →自動・自律点検を実現する設備とすること。発射管制設備はモバイル化に対応可能なこと。
  • 安全を確保すること
    →総員退避時に操作が必要な警戒区域内の設備は遠隔操作化すること。

ロケットの組立てと施設設備

 ロケットは、M-Vと同様、M組立室で、台車、門型クレーンを使用して各段の組立てを行い、クリーンブースで頭胴部の組立てを行います。その後、1段射座据付け、頭胴部結合をM-Vと同様、M型ロケット発射装置(M整備塔)で行います。

 イプシロンロケットでは、RCS(姿勢制御装置)、PBS(ポストブーストステージ)のヒドラジン充填は工場で実施し、射場では充填しませんが、ロケット組立て、点検中にヒドラジンが万が一漏洩した場合を想定し、安全に処置を行えるよう、対策を強化します。

 M整備塔は、以下の目的で改修をします。

  • イプシロンは垂直打上げ
  • ロケットの作業を行うステーション(高さ位置)
  • 総員退避後の遠隔操作
  • 音響環境の低減

ロケットの電気系点検と設備

 ロケット完成形態で全段電気系点検(End to Endの検証)を行います(1段と頭胴部の結合部分の健全性確認を含む)。点検は発射管制設備(LCS)の自動・自律点検機能(詳細は次号に掲載予定)により打上げ前日ごろに1日で実施します。

 なお、全段電気系点検に先立ち、各段の組立て、艤装後、M組立室、クリーンブースで各段電気系点検を実施します。この点検は、各段をテストケーブルで結線(2/3段間は本結合)し、LCSの自動・自律点検機能により実施します。


打上げ運用と施設設備

 イプシロンでは、従来のロケットの管制室(射点から水平距離が近く、建物の強度を上げる、または地下に設置するなどにより安全確保)とは異なり、管制室を打上げ時の警戒区域の外に新規に配置し、よりいっそうの安全性、運用性を確保します(ネットワークを整備しLCSを配置)。衛星の管制室、安全・保安業務の管制室も同様に計画しています。ロケットのオペレーションは、LCSの自動・自律点検機能により自動化し、数人のオペレータによる打上げ管制を実施します。

 従来のロケットではロケットシステムメーカーの技術支援(評価)は射場で行ってきましたが、イプシロンではLCSを用いて手順書上の現在の作業進捗状況やテレメトリ計測データなどをロケットシステムメーカーに配信し、技術支援者は現地へ出張することなく必要な期間だけ後方支援業務に効率的に参加する計画です。

 テレメトリ局経由のロケットテレメトリデータを評価する場合には、H-IIA、H-IIBロケット同様、打上げ作業管理システム(LDMS、飛行状況実時間表示システム[FORMS]およびロケットデータ管理システム[ATMS]をイプシロン用に改修)の回線と端末を利用する計画です。

 これらにより、管制室の要員はM-Vの約10分の1になる見込みです。

 打上げに先立ち、高層風観測結果を用いたプログラムレート再設定(最適な姿勢プログラムへの修正)を行うため、必要なデータ授受もLCSを使用し、射場とシステムメーカーの間で行います。

 飛行安全管制には、H-IIA、H-IIBロケットで使用している飛行安全システムを、ソフトウェアを改修の上使用します。飛行安全管制に必要な射場での情報源は、既存の設備に新規設備を加え、射場管制(ロケットの追尾、テレメトリ受信、コマンド送信など)と協力して運用します。


イプシロンロケットの打上げ運用


(ゆい・たけし)