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ISASコラム

第7回:イプシロンロケットのアビオニクス 井上 知也 イプシロンプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年7月 No.376掲載)

イプシロンロケットのアビオニクス(搭載電子機器)

 イプシロンロケットでは、短期間、低コストでの開発を目指しており、搭載されるアビオニクスシステムは基本的にH-IIA/B機器、およびM-V技術を最大限活用することを前提としています(図1)。このような制約条件にあっても、イプシロンロケットとしての運用性向上、および将来の輸送系システムへつながる技術要素として、いくつか特徴あるシステムの構築を目指しています。

図1 イプシロンロケットのアビオニクスシステム構成概要


 ここでは、それらの特徴のいくつかをご紹介します。

点検機能の機体搭載化

 イプシロンロケットが目指す運用性向上のための目玉の一つが、この点検機能の機体搭載化です(図2)。

図2 点検機能の機体搭載化


 実際には、機体点検機能は地上側の発射管制設備(LCS)と適切な機能配分を行っており、その中でも火工品回路点検機能を機体側で、またカウントダウン中の機体健全性確認機能を機体側と地上側双方で行います。前者は小型火工品回路点検装置(MOC)と呼ばれる機器で点検を行い、フライト前に取り外すことで繰り返し使用を可能としています。後者は即応運用支援装置(ROSE)と呼ばれる機器で、カウントダウン開始からリフトオフ直前まで機体の健全性確認を行います。

 現在、各機器を組み合わせた検証をシステムメーカー(IHIエアロスペース)で実施しており、所定の機能が期待通りであることを確認するとともに、運用性向上の観点からさらなる改善への取り組みを行っています。


搭載コンピュータによる安全制御技術

 H-IIAのような機体システムでは、常に地上側から安全処置を施すことが可能ですが、イプシロンでは機体側での安全制御が必要なフェーズが存在します。その際、機体側で制御するためには一つの搭載コンピュータで独立した制御を行わなければなりません。

 そのため、我が国のロケットとしては初めてCBCS(コンピュータによる制御システム)設計という手法を採用しました。これは国際宇宙ステーションなどの有人システムで採用されている設計手法で、採用に当たっては8回に及ぶ有識者会議を行い、設計の考え方や手法に問題がないことを確認しました。この技術は、将来飛行安全システムの自律化を目指す上でも有効な設計手法になるものと考えています。


モジュラー型アビオニクス思想

 イプシロンロケットに搭載されるコンピュータ(OBC)はH-IIA搭載機器の流用品になりますが、この機器を開発する際、イプシロンロケットの将来性を見込んでモジュラー型アビオニクス思想を取り込んでいます。

 具体的には、一般産業分野での汎用的なサイズ(3U)とインタフェース(cPCI)を採用したMPUボードを新規開発しました。これにより、将来的に搭載コンピュータを小型化、低コスト化する際、汎用のインタフェースで自由度の高い機器設計が可能となっています。


その先へ

 初号機向けのアビオニクスは、その多くがH-IIA機器をそのまま、あるいは一部改修して流用しています。将来的にはシステム全体の商品価値を高めるべく、アビオニクスシステムとしても小型・軽量化、低コスト化に取り組んでいます。そのために新たな部品の適用などによる機器の新規設計のみならず、機器の開発/保証の在り方も含めた抜本的な取り組みを行い、小型ロケットに適したシステム構築を目指しています。

(いのうえ・ともや)