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ISASコラム

第3回:すべては衛星ミッションのために 清水 文男 イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年3月 No.372掲載)

 イプシロンロケットの開発には「7日間」と「3時間」という重要なキーワードがあります。今回はこれらについてご紹介します。

7日間:ロケットの起立から打上げ翌日まで

 衛星をロケットに搭載すると、作業エリアや作業時間の制約が衛星の作業に対して生じます。そのため、衛星をロケットに搭載した後は極力早く打ち上げることが望まれます。

 そこで、イプシロンロケットでは衛星を搭載した後の作業期間を大幅に短縮し、1段ロケットを発射台上に立ててから打上げ翌日の後処置作業が完了するまでを7日間にすることを開発目標としています。

 ロケットを発射台の上に組み立てた後は電気系の点検を行います。従来は、その点検に多くの時間を割いていました。イプシロンロケットでは、ROSEという愛称で呼んでいる即応型運用支援装置をロケットに搭載します。このROSEが発射管制設備と連携してイプシロンロケットの点検を行い、点検完了と同時にその評価を技術者へ示します。単に要求値に入っているかどうかを判定するだけではなく、例えば、この電流値は時間が経過するに従って上昇傾向にあるなど、過去に蓄積したデータをもとにしてトレンド評価なども行う機能を有します。ROSEをロケットに搭載することで点検の評価時間を短縮するだけではなく、点検用の電気ケーブルの取り付けや取り外しなど、点検の準備や後処置に要する時間も短縮することが可能になります。

 また、ロケットの姿勢制御装置には推進燃料のヒドラジンを使用します。従来は射場で燃料の充填作業を行っていましたが、イプシロンロケットでは工場で充填した上で射場に搬入し、射場作業期間の短縮を図っています。

 これらの試みにより、1段ロケットを発射台上に立ててから打上げ翌日の後処置作業までを7日間で実施することは実現できるめどを得ています。


3時間:衛星の最終アクセスから打上げまで

 衛星はロケットに搭載した後も打上げに向けた最終準備作業(衛星に搭載した液体ヘリウムなどの冷媒の搭載や高真空度を維持するために真空引きの実施など)や点検作業を、ぎりぎりまで行いたいという要望があります。

 そこでイプシロンロケットでは、打上げ時刻の3時間前まで衛星の作業が可能となるように、打上げ当日の作業計画を検討しています。

 衛星の最終アクセスが完了した後、イプシロンロケットを整備塔から出して射座へ移動させ、搭載機器の機能点検やイプシロンロケットが飛行中に追尾を行う射場系設備との電波リンク点検などの作業を間髪入れずに実施する必要があります。打上げまでの3時間という限られた期間内に必要な打上げ準備作業がすべて設定できるように、機体と設備の開発を担当する技術者が、あらゆる観点から打上げ当日の作業計画を検討し、さまざまなアイデアを出し合って議論を進めています。


さらなる進化に向けて

 下図に示す通り、イプシロンロケットがこの7日間と3時間を実現すると、どのロケットと比較しても世界一のレベルを達成できることになります。この世界一の運用性を実現したイプシロンロケットは平成25年夏に打ち上げる予定です。

 これと並行して、我々はアビオニクスや構造系のコンポーネントに対し先進的な技術を取り込み、今よりさらに低コストを実現したイプシロンロケットを平成29年度に打ち上げることを目標として研究を進めています。この低コスト化したイプシロンロケットには、単にコストを下げるだけではなく、平成25年以降の打上げの実績も踏まえて、衛星がより使いやすくなるような改良を行っていく必要があります。次の衛星を打ち上げるときに、またイプシロンロケットを使ってみようと思ってもらえるようなロケットに成熟させるため、そして、すべての衛星ミッションを成功させるため、運用性をさらに向上させ、進化させていかなければならないと考えています。

(しみず・ふみお)