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ISASコラム

最終回:管制のお仕事
(ISASニュース 2007年5月 No.314掲載)

 「管制」という言葉を辞書でみると、「物事を集中的に管理および制御すること」とあります。ロケットの仕事でいえば、レーダやテレメータなどロケットに使われている機器のスイッチをリモート操作で入れたり切ったりしながら、打上げの準備作業を指示することになります。つまり、管制班は、準備作業の進行係というか、交通整理のようなことをやっているのです。発射のときに秒読みをするのも、管制班の仕事です。

 この説明だけではイメージがわかないでしょうから、管制班がやっていることの一部を例に挙げて、もう少し具体的に説明します。例えば、こんな具合です。
管制「それでは、次いきます......。レーダ」
レーダ「はい、レーダ。準備オーケーです」
管制「では、トラポン、オンします。にい、いち、はいオンです。......では、オン確認したら、チェック開始してください」と、こんな調子で作業が進んでいきます。そのほかにも
「○○班は△△ケーブルを接続してください」などと指示をしたりします。

 当然、これらのやりとりには台本があって、台本を作るのも管制班の仕事です。ひとたび台本ができてしまえば、あとは手順通りにガイドを進めるだけです。管制が作る台本はとてもシンプルなもので、上の会話の例では「レーダ ON」と書いてあるだけです。場合によっては、ほかの装置も含めて「搭載機器 ON」とだけ書かれていることもあります。そういう場合は、もう少し細かく書いた手順書があって、必要なときにそれを見ながら作業を進めます。各装置のさらに細かいチェック手順は、それぞれの担当者が作って管制班に渡してくれます。管制班は作業全体の流れも把握しなければならないので、一目で全体を見渡せるものの方が使いやすいのです。


指令電話によって秒読みを行う管制班

 「こういう仕事だったら、何も電気屋さんでなくてもよいのでは?」と思うでしょう。そうです。管制班は電気が専門でなくても務まるのです。でも、電気系に詳しい方が、少しだけ都合がよさそうです。それは、ロケットに使われている装置の多くは電子機器だからです。その電子機器が正常に働くことを確認するために、打上げまでの途中で何回も動作試験をします。たいていは問題なく進むのですが、ごくたまに装置の動作がおかしいことを発見する場合があります。そうなると、装置の担当者は大変です。ひょっとしたら、担当者は頭の中で、「今まで同じような試験をしてきたときは問題なかったのに......。どこか壊れたんだろうか? うん、そうに違いない......。もう駄目だ......。やり直しだ」と考え、落ち込んでいるかもしれません。

 そういうとき、管制班は試験を続けることができるのか、それとも中断するべきなのか、の判断を迫られます。まず、電源の担当者に、電流や電圧に異常がないか確認します。正常ならば、慌てることはありません。できるだけ今の状態を維持したまま、担当者に原因究明の手だてを考えてもらいます。電流が異常に大きくなったりした場合には、原因究明よりも安全を優先して、その機器をオフにします。そして、気持ちが落ち着いたところで、また担当者に原因究明の手だてを考えてもらいます。

 結局、管制班は大したことをやっていませんね。でも、それぞれの機器については、その担当者が一番詳しいのです。担当者の提案を受けて効率よく作業を進めるのも、管制班の大事なお仕事です。ただし、これは打上げ日まで十分な余裕がある場合で、打上げ当日に異常を発見した場合には十中八九、中断とするように手順が決められています。

 ところで、初めの方に出てきた会話ですが、あれはお互いが目の前にいるわけではありません。管制室とレーダの地上局は数km離れています。テレメータのデータを見ている人も、別の建物にいます。そのため内之浦では、「指令電話」と呼ばれる、大勢で同時に会話ができるヘッドセットを使っています。近ごろ、テレビのコマーシャルなどで見掛けますが、内之浦で使っているものはあんなに格好よくありません。古くて調子が悪いのですが、新しくするお金がなかったので、我慢して使い続けていました。でも、ありがたいことに、もうすぐ新しい指令電話がやってくるらしいです。

 最後になってしまいましたが、写真は、動作試験中に“古い”指令電話を使いながら秒読みのカウントをしている“管制班の人”です。この写真から「管制のお仕事」の雰囲気を感じ取っていただけたら、うれしく思います。

(おおしま・つとむ)