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ISASコラム

第7回:ロケットの追跡

(ISASニュース 2007年3月 No.312掲載)

 ロケットの電気屋さん。今回は、ロケットの追跡についてお話しします。衛星や人を宇宙に運ぶ大型ロケットには必ず誘導制御装置が搭載されていて、あらかじめ決められている軌道を正しく飛ぶように、常にロケットをコントロールしながら飛んでいます。

 その肝心要の誘導制御装置に異常が発生して、ロケットを正しくコントロールできなくなったらどうなるでしょう? 最悪の場合、ロケットは思いもよらぬ方向へ飛んでいき、大事故を引き起こしてしまう可能性も考えられます。ロケットは宇宙と地球をつなぐ夢の輸送機ですが、一つ間違えると、恐ろしい凶器へと変身してしまうのです。

 そこで、地上にいる実験班員たちは、ロケットが凶器に変わってしまわないように、常にロケットの動きを監視し、もしものときには、ロケットを破壊してでも暴走を止めるための用意をしておく必要があります。このとき、ロケットを追跡しながら正確にロケットの位置を割り出すことが、レーダ班の仕事なのです。

 レーダは、電波(RAdio)を目標物にぶつけて、そこからの反射を検出し(Detecting)、同時に(And)距離を測定する(Ranging)装置であるので、すべての頭文字を取って「RADAR」と呼ばれています。


レーダアンテナ

 レーダはロケット追跡に特別な装置ではなく、空港で飛行機の管制に使われている航空管制レーダや雨雲の動きをとらえるための気象レーダなど、多種多様なレーダが世の中に存在します。これらのレーダは、地上の基地局から送り出した電波が目標物に当たり、その反射波を受けることで目標物の位置情報を得ているので、「1次レーダ」と呼ばれています。

 1次レーダは、飛行機や船、雨雲のように、不特定多数の目標物の位置情報を瞬時に知る方法としては有効ですが、必ずしもロケットの追跡に適した方法とはいえません。ロケット追跡の場合、目標物が決まっているので、むしろ、ほかの物体からの反射波は見たくないのです。

 例えば、人込みの中で友達とはぐれてしまった状況をイメージしてみてください。ただ単に「おーい!」と叫ぶと、みんながこちらを向いてしまいます。でも「○○君!」と名前で呼べば、特定の人だけがこちらの呼び掛けに応えてくれます。そのとき、返事の聞こえてくる方向をたどっていけば、人込みに邪魔されることなく友達のいる場所が分かるというわけです。

 実は、ロケットの追跡でも、これと似たようなことをやっています。まず、地上の呼び掛けに応えてくれる装置を、あらかじめロケットに搭載しておきます。次に、地上からコードを付した信号(これが名前に相当する)をロケットに送ってあげます。そうすれば、ロケットだけから返事が返ってくるという仕掛けになっています。

 この方法は「2次レーダ」と呼ばれており、1次レーダと比べて遠くまで、かつ安定して目標物を追跡できるメリットがあります。また、ロケットに搭載されている応答装置は「レーダトランスポンダ」と呼ばれています。トランスポンダとは、地上の呼び掛けに応じて(Responder)、返事を返す(Transmitter)という意味の合成語です。いつもは「トラポン」と呼ばれ、みんなから親しまれています。

 さて、ここからはロケットの追跡について少しだけ具体的に紹介したいと思います。レーダによるロケットの追跡は高精度に行われていて、角度にして約0.003°、距離にして約2mの精度でロケットの位置を瞬時にとらえることができます。そして、その位置データは、ロケットの飛行安全に役立てられています。また、M-Vロケットの場合、レーダ班の仕事は追跡だけでなく、ロケットの誘導を担当しているRG班やロケットの飛翔安全を担当しているRS班からの命令をロケットに伝える仕事も行っています。この命令は「コマンド」と呼ばれており、M-Vロケットに搭載されているトラポンを通じてロケットへコマンドが届けられています。


M-Vロケット 搭載カメラの画像

 これだけでもたくさんなのに、地上のレーダ基地局では、ロケットが撮影したTV画像の受信もしています。受信されたTV画像はリアルタイムで監視することができ、ロケットに異常がないか視覚的に確認する手助けになっています。

どうですか、レーダ班の仕事を理解していただけたでしょうか? さながら、ロケットの安全をつかさどる監視員といったところでしょうか。

(かわはら・こうすけ)