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ISASコラム

第5回:ロケットの姿勢制御

(ISASニュース 2006年12月 No.309掲載)

 今回はロケットの電気屋さんのうち,姿勢制御班のお話をしたいと思います。そもそもロケットの役目は何なのでしょうか? それは人工衛星や惑星探査機などのお客さんを,あらかじめ決められた目的地(軌道)へ運ぶことです。そうすると,お客さんを目的地まで運んで,きちんと送り出せるようにロケットを操縦していかなければなりません。ロケットの姿勢制御とは,ロケットを思い通りに操縦していくことなのです。しかし,今のロケットは自動車や飛行機のように人間が操縦できるようなものではありません。そこで,人間の代わりにロケットに乗って操縦を行う装置を作るのが,姿勢制御班と呼ばれる電気屋さんの仕事なのです。それでは,姿勢制御班のもう少し詳しい仕事内容を,M-Vロケットを例に説明したいと思います。

 巨大なロケット花火ともいえるM-Vロケットは,一度火がついたら止まることもスピードを調整することもできません。アクセルをずっと踏みっ放しにした自動車のようなものですから,M-Vロケットの操縦はとても難しいのです。また,ロケットは自動車や飛行機とは違って,寄り道はおろか,目的地までの最良のコースを大きく外れることも許されません。それに尾翼がないため不安定で,操縦を誤るとひっくり返って,落ちてしまうことにもなりかねません。ものすごく操縦が難しいロケットを,ものすごく正確に操縦しなければならないのです。

 あらかじめ決められたコースに沿って目的地までロケットを操縦したいのですが,M-Vロケットではスピードの調整ができないため,ロケットが向くべき方向,つまり姿勢を調整することで操縦が行われます。ロケットがどれくらいのスピードで飛んでいくかは,あらかじめ計算することができます。スピードが分かれば,計画されたコースを飛んでいくためには,例えば発射してから10秒間は東を向いて,次の20秒間は南東に向けるなどと,目標姿勢の計画を決めればよいわけです。しかし,計算通りのスピードで飛ばなかったり,風の影響を受けたりして,計画されたコースを外れてしまうことがあります。そこで,もし予定のコースからずれていたら,地上から目標姿勢の計画を少しだけ修正する指令を電波でロケットへ送って,元のコースに戻るように仕向けられるようになっています。


M-Vロケット姿勢制御班の顔ぶれ

 ロケットの操縦は,姿勢センサと制御コンピュータの二つの搭載装置の協調で行われます。M-Vロケットの姿勢センサには,光ファイバジャイロというものが用いられています。ジャイロとは,回転の速度を計るための機械です。どれだけの回転速度でどれくらいの時間だけ回転したかを計ってコンピュータで計算することによって,ロケットが回転した角度,つまり今どちらを向いているか(どういう姿勢か)を知ることができます。ジャイロには原理によっていろいろな種類があります。一昔前まではこまの原理を用いた機械式のジャイロが使われていましたが,機械式のジャイロはロケットのような激しい振動や大きな衝撃に弱いという欠点がありました。一方,光ファイバジャイロは機械的な部分がないので,M-Vロケットの振動や衝撃にも耐えて機能することができ,とてもわずかな姿勢の変化も察知することができるスグレモノなのです。

 制御コンピュータには,発射してからの経過時間によってロケットが向くべき方向(姿勢の目標)があらかじめインプットされています。その目標となる姿勢と飛行中のロケットの実際の姿勢を比べます。目標とぴったり一致していればそのままの姿勢を保持すればよいのですが,目標からずれていたら,そのずれを修正するためにノズル(噴射口)をどのように動かせばいいか,どのガスジェットを噴かせて姿勢を変えればいいかをコンピュータが計算します。計算結果は制御指令として,ノズルやガスジェットの駆動装置(アクチュエータ)へ送られます。そして指令通りにアクチュエータが動くことによって,ロケットの姿勢が変化するわけです。すると,姿勢センサがその姿勢の変化を察知して,再び目標の姿勢と比較されます。このような一連のサイクルが1秒間に何十回も繰り返されて,ロケットが思い通りに操縦されるのです。

 ロケットの姿勢制御は大変難しい仕事でありますが,失敗は絶対に許されません。幸い,M-Vロケットでは,操縦を誤って失敗をすることは一度もありませんでした。これも姿勢制御装置の製作を担当した電気屋さんのチームワーク,ほかの関係する各班の電気屋さんの協力のおかげであったと思います。

(たむら・まこと)