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ISASコラム

第2回:ロケットの電気屋さんの仕事(その2)

(ISASニュース 2006年09月 No.306掲載)

 一度火がついたらものすごい勢いで火炎を吹き出しながら飛んでいくM-Xロケット。これは例えるなら,アクセルペダルを底まで目いっぱい踏んで全速力で走っている車だ。一度ペダルを踏み込んだら二度と緩めることはできない。こんな荒れ狂うロケットを狙い通りに飛ばすためにはどうしたらよいか? 少なくともハンドルは必要だ。実は,よく見てみると,M-Xロケットには尾翼が付いていない。昔のロケットには空気の力で姿勢を安定させる尾翼が付いていたが,最近のロケットには付いていないものが多い。それはなぜか? 時には真っすぐに,時にはカーブさせながらロケットの姿勢を自在に操れる姿勢制御装置を備えているからだ。それが,TVCと呼ばれる噴射口(ノズル)の向きを変えられる装置だ。ものすごい勢いで燃料が吹き出しているノズルの向きを変えなければいけないので,TVC装置にはとても力持ちの腕がそれぞれ2本付いていて,その腕を伸び縮みさせることでコントロールする。1段目のTVC装置はとても大きな力を必要とするので油圧式だが,2段目,3段目は電気モータによる電動式だ。TVC班という機械系に強い電気屋さんたちがお守りを担当する。

 ロケットの2段目分離後,3段目に点火するまで少し間が開くが,この時はまだ3段目から燃料が吹き出していないので,いくらTVC装置を動かしてもハンドルが切れない。そこで,SMSJ(小型固体ロケットを利用したサイドジェット)と呼ばれる小さな装置を載せ,3段目に点火するまでの間,姿勢をコントロールする。SMSJの制御には電気パルスで指令を送るので,やはり電気屋さんが登場する。

 でもよく考えてみると,いくら自分の向きを変えられるといっても,空を飛ぶロケットには道路も標識もない。自分が今いったいどこを飛んでいるのか,どういう向きに飛んでいるのか,それが分からなければお手上げだ。そこで,ロケットが自分の姿勢と位置を知ることができるよう,慣性誘導装置と呼ばれる特別な装置が載っている。この装置は,ジャイロと呼ばれる仕掛けを利用し,自分の向きをものすごく正確に測ることができる。慣性誘導装置にはあらかじめ,どうロケットを飛ばせたいかという情報が書き込まれており,これから外れないようにTVCやSMSJといった装置に指令を送る。手足にどう動けばよいかを指令する,ロケットの脳のような装置だ。だから,ロケットをちゃんと飛ばして衛星打上げを成功させる上で,姿勢制御班の電気屋さんたちの責任は極めて重い。


M-Xロケット第2段計器部(円筒裏側にびっしり搭載機器が並んでいる)

 ただし,どう飛ぶかをロケットだけに任せておくと少し心配なので,地上のレーダーからロケットの追跡を行う。ロケットにはレーダートランスポンダという応答装置を積んでいる。これは,地上レーダーからの呼び掛けに対して返事をする装置だ。地上レーダーから「もしもし」という声を掛けると,その声は遠くを飛んでいるロケットにしばらく時間がかかって届く。声が届くと,レーダートランスポンダからすかさず「はいはい」という返事を返す。その声が,またしばらく時間がかかって地上に戻ってくる。往復の時間が短ければロケットは近くを飛んでいると分かるし,長ければ遠くを飛んでいることになる。実際には,声ではなく電波を使って「もしもし」に相当するパルスを送ると,それに対する返事がレーダートランスポンダからパルスで返ってくる。送信したパルスと受信パルスとの間の時間差を測れば,地上局とロケットの間の距離が正確に分かる。あとは,レーダーアンテナがどちらを向いていたか正確に測れば,ロケットの位置を割り出せる。レーダーにはロケットを自動で追いかける仕掛けがあり,連続して追跡ができる。ロケットに逃げられないようちゃんと追いかけるのが,レーダー班と呼ばれる電気屋さんたちの使命だ。

 このほか,レーダートランスポンダには地上からの簡単な指令をついでに送る仕掛けがあり,これを利用してロケットの軌道を人が修正することもできるようになっている。これを行うのが電波誘導班と呼ばれる電気屋さんたちだ。軌道がどうずれているかをレーダーからの情報で常に監視し,飛んでいる途中で,もう少し下を向きなさいとか右を向きなさいといった具合に,ロケットに指令を出すのだ。(つづく)

(やまもと・ぜんいち)