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第1回:ロケットの電気屋さんの仕事(その1)
(ISASニュース 2006年08月 No.305掲載)
宇宙教育センター長の的川泰宣先生から,ロケットのことをまったく知らない人たち,特に少年少女が興味を持てるように「ロケットの電気屋さん」の話をしなさい,との指令が下った。ご期待に沿えるかどうか怪しいところだが,トップバッターとして「ロケットの電気屋さんたち」を紹介することにする。
M-Vロケットは,ロケットの種類としては,固体ロケットという仲間に入る。中に火薬(推進薬)の詰まった丈夫な容器(固体モータと呼ぶ)を3段(場合によっては4段)に重ね,下の大きなモータから順番に火をつけて,噴き出す火薬の反動力で飛び上がる。要するに,皆さんも遊んだことのあるロケット花火が3段重ねになったようなものだ。下から順番に1段目,2段目,3段目と名前が付いており,この順番で火をつけ,飛んでいる最中に燃え終わった無駄な重たい容器はどんどん切り離して捨てていく。用済みの無駄なものを次々と捨てていくと,効率よく衛星を打ち上げることが可能だ。
「モータ」というと,ついつい電気で回るモータのことを想像するが,固体ロケットのモータとは,あくまでも火薬の詰まった入れ物にすぎない。では,それなのになぜ電気屋さんの出番があるのか? ちょっと不思議であるが,どっこいロケットでは,実に多くの電気屋さんたちを必要としているのだ。ロケット花火であれば,いったん火をつければ勝手に飛び上がり,また地面に落ちてくる。手間がかからないで楽だが,その分,狙い通りに飛ぶ保証もない。衛星を飛ばすロケットはそれでは駄目である。きちんと狙い通りのコース(軌道)に衛星を投入しなければいけない。そのためにも電気屋さんの力が必要だ。ロケットを飛ばすまでの仕事の順番に沿って,ロケットの電気屋さんたちを紹介しよう。
まず,ロケットに搭載されている機器に電源を入れ,それぞれの担当者に正常かどうかチェックしてもらいながら手順よく立ち上げ,最終的に打上げ準備OKの状態に持っていく,そんな役割を負った
管制班
と呼ばれる電気屋さんたちがいる。RB(搭載機器)コントロールパッケージというスイッチのかたまりのような装置が各段に載っており,それを光ファイバでコンピュータとつないで制御する。いわば交通整理のお巡りさんみたいな人たちだ。チェックの最中も,いろいろな人たちがいろいろなことを言ってくる。それを指令電話でしっかり聞き分け,その都度適正な判断をしなければならない重要な仕事だ。
ロケットの電気屋さんが担当するM-Vロケット第3段計器部(下に見える黒い容器が第3段モータ,その下に半分見えている白い円筒は第2段計器部)
各種搭載装置の大半は電気で動かすので,バッテリーもいくつか載っている。バッテリーを充電したり電圧電流をきちんと見張っている
電源班
と呼ばれる電気屋さんたちがいる。地上でのチェック中にバッテリーばかり使っていると充電作業が増えて大変なので,外部電源から電気を供給したり,チェックのためにわざとバッテリー側に切り替えたりする。こうした作業の間中,電源班の人たちは黙々と監視を続ける。何か問題が起きた場合には,電流値が正常かどうかで判断できることもあるからだ。
管制班によってロケットに搭載された装置がいつでも飛ばせる状態になると,今度は火をつける電気屋さんの出番だ。花火に火をつけるときは,やけどをしないよう気を付けなければならない。本物のロケットではもっともっと危険なので,離れた安全な場所から第1段モータに電気で指令を送り,火をつける電気屋さんがいる。この人たちを
点火管制班
と呼んでいる。秒時を決めてただ点火指令を出すだけなら楽だが,打上げ直前までロケットの制御機器や搭載機器の状態が監視されており,不審な点があれば誰かが「エマスト! (エマージェンシーストップ:緊急停止)」と叫ぶので,その場合ほとんど反射的に打上げを止めなければならない。ロケットに火がついてしまえばもう絶対に止められないので,その前に大急ぎで止めなければならない。1秒を争う大変緊張する仕事だ。(つづく)
(やまもと・ぜんいち)
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