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ISASコラム

第3回
大気球の飛翔

(ISASニュース 2002年11月 No.260掲載)

地上を離れた気球は毎分300mの速度で上昇し大空に吸いこまれてゆく。上昇するにつれて気球に詰められたヘリウムガスは膨張し、気球の容積いっぱいになると、底に開けられた排気口から流れ出して、気球の上昇が止まり水平に浮遊する。なかには、オゾンゾンデのように排気口のない気球もあり、この場合は、ゴム風船と同じく、容積いっぱいに膨らむと破裂する。

気球の航跡は風まかせではあるが、よい風を選ぶことで制御をしている。そもそも、日本上空では偏西風が吹いており、通常東へ流される。一方で高度20kmを越える高度の風は季節によって逆転し、夏は東風、冬は西風である。我々は、適切な風が吹く季節、日、時間を選んで気球の放球を行っている。三陸で気球実験を5月下旬と9月上旬に行うのは、偏西風で流された気球が放球地点へと戻ってくる夏の始まりや終りの風の弱い時期にあたるからである。うまい風を選ぶと図に示したように、一度、東へと進んだ後に西へと帰ってくる航跡をたどらせることができ、気球と搭載機器の回収が楽になる。当然のことながら、風向きや風速は高度によって異なっているため、飛翔中は適宜飛翔高度を変えながら、適当な風を探し続けている。この意味で、風のデータは貴重であり、気象庁のデータや全世界の気象予測データベースであるUARS Assumulated Dataも利用している。

気球と地上との通信は無線で行い、周波数1,680MHz帯のダウンリンクで測定データを取得し、72.3MHz帯のアップリンクによってコマンドを送信している。人工衛星と同様に、観測機器に関連するコマンドもあるが、気球に特有なものとして排気弁とバラスト弁の制御がある。排気弁は気球頭部に取り付けられており、開くことでヘリウムガスを放出することができる。この結果、浮力が減少し、気球の高度は下がる。また、バラスト弁を開くことで、1mmにも満たない小さな鉄の粒子を放出し、全重量が減らすことで、気球は上昇する。

気球の飛翔高度の制御は、上記のように、飛翔航跡の制御という点でも重要であるが、日没時の高度制御という点で必要不可欠である。気球に働く浮力は、気球の容積に比例しており、日没にともなってヘリウムガスの温度が下がると浮力が減ってしまい、気球は高度を下げ始める。これを防ぐため、バラスト弁を開き重量を軽くする。

天体観測を行う搭載機器に関連して、観測器の姿勢制御も行っている。衛星と異なって重力が働くため、方位角制御と仰角制御とを経緯台方式で行うことが多い。観測器は気球という大きな慣性を持った物体にぶら下がっているため、気球との連結を強めたり弱めたりすることで、適宜、方位角の制御を行なっている。この目的のため、より戻しモーター、リアクションホイールが用いられる。気球の飛翔速度は時速100kmを越えることも珍しくないが、風とともに移動しており、残留大気も少ないため、制御を乱す外乱は極めて小さい。

最後に観測器と気球との分離信号を送信し気球実験を終了する。この信号により、吊りひもが切断され、観測器はパラシュートで降下する。このとき、観測器は気球皮膜に取り付けた引裂きひもを引張りながら降下するため、気球に大きな穴があき、気球も降下する。気球、および、観測器は海上に緩やかに降下する。これらは、ヘリコプターと回収船によって捜索され、手早く回収される。

気球到達高度世界新記録を達成した気球の航跡

(斎藤 芳隆)