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ISASコラム

第2回
大気球の放球

(ISASニュース 2002年10月 No.259掲載)

はじめに

大気球による科学観測は世界の十数カ国が行っているが、放球方法はそれほど多くなく最も一般的なのは、ダイナミック放球法である。しかし、狭い国土の日本では独自の方法で大気球の放球を行ってきた。

欧米の大気球放球

欧米ではダイナミック放球法(写真1)による大気球の放球が最も一般的である。これは、クレーンを装備した放球車に観測器を吊り下げておき、気球頭部はスプールと呼ばれるローラーで固定されている。ヘリウムガスを規定量注入し終えた気球は、固定されているスプールを跳ねることで気球本体がリリースされ、観測機器を吊り下げた放球車は全速力で風下に向かって走り出す。放球車が気球本体に追い越された時、観測器の固定フックをはずすことによって観測装置は上昇を始めることになる。

写真1

日本の大気球放球

1966年より本格的な気球観測が始まり、茨城県大洋村、福島県原ノ町の2カ所で5年間にわたって実験を行ってきた。

1971年に現在の三陸町に恒久施設が完成し、安定した気球観測が行われるようになった。

大気球の放球は、日本独自の放球方法であるスタティック放球と呼ばれる方法から始まった。1980年に立て上げ放球が考案されてから1998年までの18年間安全で確実な放球方法として採用されてきた。スタティック放球は、3本のローラーで気球の頭部を押さえ、気球下部は地面に畳んでおくため放球時には観測器が浮上するまでおよそ20秒もかかることになる。これに対し立て上げ放球は、気球の最下部をランチャーで固定しているため放球時に5〜6秒で観測器を浮上させることができ、放球の安全性が格段に良くなった。

ただし、この方法は全浮力のついた気球を立て上げる時に気球本体をローラーでこすって行くため、総浮力が1トン以上になると、気球本体に傷をつける恐れが懸念された。

1999年に新方式となる大型放球装置を開発し、導入した。これによって総浮力が1トン以上となる気球の放球も可能となった。観測器を保持しているランチャーとなる大型放球装置は固定式であるため、我々は「セミダイナミック放球」と名付けた。この大型放球装置は、2台の垂直リフトを備えており、観測器の直上を保持するリフトは地上高8mまで持ち上げることが可能である。また、観測器はもう一方のリフトにより観測器の下面で地上高5mまで持ち上げることができる。これらのリフトは、放球時に地上風の影響で気球が傾いた状態で観測器をリリースした際、観測器が地面に激突するのを避ける為である。さらに、この装置全体が直径6mの回転テーブル上に固定されており、360°の全方位にわたって回転させることができるため、風向に合わせた放球が可能となっている。放球は、スプールに固定された全浮力のついた気球頭部をスプールが跳ねる(写真2)ことでまず気球をリリースする。気球が立ち上がっていく間に放球方向に回転テーブルを回転させ、気球が大型放球装置の直上からやや風下側へ傾いた時点で、観測器を固定しているフックを解除することで観測器は上昇を開始する。

写真2

現在、我々はスタティック放球方式、立て上げ放球方式、セミダイナミック放球方式という3種類の放球方式を確立しており、観測器の重量、構成および地上風の状態によって3つの方式を使い分けて大気球の放球を行っている。

(並木 道義)