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ISASコラム

最終回:「あかつき」のこれから

(ISASニュース 2011年9月 No.366掲載)

 「あかつき」が金星周回軌道投入に失敗した去年の12月から約9ヶ月がたちました。金星周回軌道投入のための減速制御の最中、軌道制御エンジン(OME: Orbital Maneuver Engine)のトラブルに遭遇し、異常を検知した探査機が自身の判断でエンジン噴射を中断したものでした。この『ISASニュース』が発行されるころには、投入失敗以来初めてとなるOME試験噴射の結果が出ていることになりますが、「あかつき」関係者は今、その試験準備に奔走しています。

OME試験噴射

 「あかつき」は、周期が約203日の太陽周回軌道を飛行しています。金星の周期は約224日のため、「あかつき」が9周、金星が8周すると再び近づくという軌道です。ただし、近づくといっても、このまま放っておくと金星再会合を狙う2015年には1億kmまでしか近づくことができません。早めに「あかつき」の周期を調整し、この差を縮める必要があります。そのため、9月にOMEの試験噴射を行い、今年11月の近日点では周期調整のための大きな近日点軌道制御を行う予定です。

 試験噴射は2段階に分けて行われます。地上試験の結果からもOMEは一部破損している可能性があり、OME噴射中は外乱が発生すると推測されます。1回目の試験噴射では、その外乱量を確認します。2回目の試験噴射では、1回目で確認された外乱量を姿勢制御用スラスタによって調整し、姿勢保持できるかを見極めます。軌道制御を正確に行うためには、OME噴射中の姿勢保持が不可欠です。OMEが利用可能か否か、姿勢保持が可能か否かが、その後の近日点軌道制御を500N級のOMEで実施できるか、もしくは23N級スラスタ(RCS: Reaction Control System)4本で行うのかの判断ポイントになります。


図1 「あかつき」軌道制御時の探査機と惑星の位置関係


作戦

 試験噴射といっても、ただOMEを噴くだけではありません。実は、さまざまな作戦が練られています。地上試験の結果、OME噴射時に酸化剤を燃料より早めに流し始めると、着火時の衝撃が緩和される現象が見えました。また、OME噴射前にOME各部の温度を上昇させておくと、同様にOME着火時の衝撃が緩和される現象が見えました。これらの確認事象を実際に考慮してOME噴射するのですが、特に、OME噴射前のアクロバティックな姿勢変更には注目です。

 まず、探査機の姿勢を180度回転させ、OME面を太陽光で温めます。その姿勢のまましばらく時間を置き、次に90度姿勢を回転させて、軌道制御姿勢になります。OME面を太陽に向けている時間帯はもちろん、180度、90度の姿勢変更中もOME各部の温度は上下するのですが、その温度変化率も考慮した上で姿勢変更方法を決定しました。分かっている限りの優しい噴射方法でOMEを噴くのです。

 もし、OMEが利用できないという結果になった場合は、上述のようにRCSによる軌道制御を取ることになります。RCSはOMEに比べ推力が小さいのですが、スウィングバイを使って減速し、推力不足分を補うという手段もあります。軌道計画を考える立場としても、あらゆる可能性を追求して、「あかつき」を金星周回軌道に投入する方法を検討しています。


金星周回軌道投入に向けて

 9月の試験噴射と11月の近日点軌道制御で金星周回軌道投入までの道筋が決まるため、今年が「あかつき」の正念場となります。OME不具合の原因究明に始まり、OME着火時の手法検討など推進系担当の熱い頑張り、推進系が期待する着火方法、姿勢変更方法を実現するための姿勢系担当の冷静沈着な検討、みんなのわがままな要求に文句を言いながらも(勝手な想像です……)実現解を検討してくれるシステム担当や運用担当、太陽周回軌道を飛行していることを利点に変え魅力ある科学観測を提案してくれるサイエンスチーム。通信系や電源系、軌道系の細やかな配慮も不可欠です。時にはぶつかることもありますが、真剣です。次回金星再会合まで約4年強ありますが、意外とあっという間な気がします。

 これまでの皆さまのご支援に感謝するとともに、これからも「あかつき」の応援をどうぞよろしくお願い致します!


(ひろせ・ちかこ)

「あかつき」の挑戦 最終回に寄せて
 『ISASニュース』に連載された「『あかつき』の挑戦」も今月号で終了すると聞きました。長い間読んでいただき、プロジェクトマネージャーとして感謝致します。
 思い返せば、「あかつき」のプロジェクトが正式に提案されたのは、2001年1月の第1回宇宙科学シンポジウムでのことでした。その1年くらい前から私自身はプロジェクトに関わるようになりましたが、ミッション提案までの1年間は東京大学の研究室を空にして、講義もほかの先生に代わってもらい、宇宙研の一室を借りて準備を行い、提案前の大みそかまでシンポジウムの予行演習を繰り返したことを思い出します。そこにこぎ着けるまでには、工学の中谷一郎先生、NECの皆さん、大学や宇宙研の理学メンバーとの激しい議論があり、ミッションの主要なポイントはそこで決まったものを10年かけて実際の機体につくり込んでいったのでした。当時は、提案書依頼書(RFP:Request for Proposal)などなかったので、このような総力を挙げての検討も可能だったのだと思います。その後、新たにプロジェクトに加わってくださった方々の努力も忘れることはできません。
 いよいよ金星軌道へ、と世界の研究者が待ち構えていた投入に残念ながら成功できなかったわけですが、しかし、そのことでこのミッションの価値がいささかも下がったわけではありません。金星の大気の謎を解く使命はいまだに我々の手の内にあります。最後の力を振り絞ってでも、「あかつき」は金星にたどり着くでしょう。「あかつき」の挑戦はこれからも続きます。

(中村正人)