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ISASコラム

第10回:1μm赤外カメラIR1で見る金星の雲と地表

(ISASニュース 2011年1月 No.358掲載)

 1μm赤外カメラIR1は「あかつき」に搭載された5台のカメラの一つで、ほかのカメラなどと協力して、「あかつき」の大テーマである「大気超回転の謎」を解くことを主目的としています。大気超回転は、この「あかつきの挑戦」シリーズ2回目の「金星の風に訊け」(今村剛)で紹介しています。金星本体が時速6kmで回っているのに、その上に時速360kmの風が吹いているという不思議な現象です。つまり風が勝手に地表の60倍の速さですっ飛んでいる。ちなみに地球ではその逆で、最大風速は地表速の10分の1くらいです。

 では、どういう方法で謎解きをするかというと、金星周回軌道上から雲の写真を2時間おきに撮って比較し、雲の動きから風速の分布を決めるのです。超回転の原因は雲層(45〜70km)あたりにあるらしいので、「雲層中のいろいろな高度で風速を測れば加速の仕組みが分かるはずだ」という戦略です。カメラが多数あるのは、波長によって見える高さが違うことを利用するためです。IR1カメラは高度55kmあたりを担当します。紫外カメラでは高度70kmあたり、2μm赤外カメラの夜面では50kmが見えます。

 カメラ自体は、焦点距離84mm・F8・視野12度のCCDカメラのようなものに、昼面用1波長・夜面用3波長のフィルターを組み合わせています。センサ部分は普通のデジタルカメラと一見大差ありませんが、目には見えない1μmの赤外光を扱うところが違います。また、大違いなのは信頼性です。壊れたら直すことができない宇宙の彼方で、熱や放射線にさらされながら何年も働き続けなければなりません。

 IR1カメラには副目的があり、夜側も3波長で観測します。1μm域の特色は、雲と大気を通して地表が透けて見えることにあります。一つの狙いは地表付近の水蒸気量で、水蒸気吸収のある波長とない波長の明るさを比べることによって、半球分の水平分布を調べます。地球大気中と同様、水蒸気は地表付近の環境を左右する重要な気体です。もう一つの狙いは地表物質で、別の波長ペアの明るさ比較によって、地表にある鉱物の種類を推定する手掛かりを得ようとしています。例えば、黒っぽい第1鉄が多いのか、赤さびの第2鉄が多いのかが分かる可能性があります。もう一つのおまけが活火山探しです。金星では数億年前に盛んな火山活動があったらしいのですが、活火山は見つかっていません。もし見つかれば金星内部状態に関する大ニュースです。詳しく調べることができれば、金星の起源や進化に関するいろいろな情報が得られるはずです。


図1 金星通過2日後、60万kmの距離から撮像した金星(0.90μm)
昼面が三日月状に見えている。視直径は約1度。


図2 金星通過2日後、60万kmの距離から撮像した金星(1.01μm)
右側の薄暗い部分が夜面からの熱放射。左側の明るい部分および上下に伸びる明帯は昼面とその迷光。


 残念ながら2010年12月7日の周回軌道投入は失敗してしまいましたが、2日後に60万km行き過ぎたところから振り返って金星を撮像しました(図1)。昼面は細い三日月状に見えています。上方が二重になっているのは、撮像中に「あかつき」の姿勢が変わったためです。夜面では1万倍も明るい昼面からの迷光がとても強いのですが、右側にぼんやり、しかしくっきり半球状に夜面が見えています(図2)。夜面中央に見える横長の暗部は、この経度域の赤道部分に東西に横たわるアフロディーテ大陸と思われます。大陸はまわりより標高が高いので気温が低く、赤外熱放射が弱いためIR1カメラでは暗く写るのです。実際の観測では、昼面部分を視野の外に出して夜面だけを撮像する予定です。なお、昼夜の明るさの違いにはフィルター透過率の違いで対応しています。

 現在、探査機の現状の確認作業を進めており、再挑戦の可能性を探っています。


(いわがみ・なおもと)