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ISASコラム

第6回:深宇宙探査を支える通信システム

(ISASニュース 2010年9月 No.354掲載)

 「あかつき」は、「はやぶさ」までの得難い経験を形あるものに変えて長年の深宇宙探査技術を継承する使命も担っています。しかし、「守成は難し」。成功の内にも潜む問題点を見逃さず、緻密に補ってより高い完成度へ変成する継承者の仕事はいぶし銀の味わいです。

 「あかつき」が新調した通信装備を図1に並べました。トランスポンダ(X-TRP)から高出力増幅器(TWTA、SSPA)、アンテナ(HGA、MGA、LGA)まで、耳目に当たる通信装置は新しく生まれ変わっています。小型化、軽量化、低消費電力化を果たすと同時に、早々に色あせないために独自の工夫を加えてなっています。成果がなるべく多くのプロジェクトに役立つことを願うならば、使いやすさを損なわない程度に斬新であるべきです。機器開発だけではありません。図1は、送信経路(左向き矢印)も受信経路(右向き矢印)も常に2経路確保できることが見て取れると思います。完全冗長といえるこの構成は、新規開発に支えられる「あかつき」に必要なものであると同時に、今後のプロジェクトにとっても採用しやすいものです。
「あかつき」は、今後の深宇宙探査に必要となる通信系の標準構成を提示したのでした。


図1 「あかつき」の通信系の構成と新しい搭載通信機器


 「あかつき」からの最初の便りは、NASAの深宇宙ネットワーク(DSN)に所属する34m地球局へ届く手はずになっていました。そのため、新規開発のトランスポンダとNASA地球局通信装置との噛合わせ試験など、入念に準備してきました。打上げ時には、上述の冗長構成で2つの低利得アンテナへ経路選択することにより、「あかつき」は全天に聞き耳を立てることができます。とにかく、通信装置が機能してデータの送受信を開始しない前には「あかつき」の安否も何も分からないわけですから、技術の継承もあったものではありません。果たして、「あかつき」は予定通りの信号をDSNへ向けて送信してきました。その後もいくつか思いがけないことは起きましたが、すべては人間の側の思い込みやうっかりなどが原因なので、「あかつき」の通信系は正常なのでした。図2は、内之浦34m局で最初に送受信した信号レベルの推移です。運用中のイベントもいくつか記されています。私たちはまずこれにより「あかつき」が期待通りに応答していることを知るのです。期待値と計測受信レベルがよく一致しています。

図2 「あかつき」内之浦34m局第1可視における搭載(UPLINK)/ 地上(DOWNLINK)受信信号レベルの推移


 私たちはこの後、1ヶ月をかけて図1の進行波管増幅器(TWTA)を除くすべての機器が健全であることを確認しました。例えば、高利得アンテナ(HGA)は「あかつき」構体に対し0.2度以下の傾きで設置されていて設計通りに35.7dBi(送信)、23.4dBi(受信)の性能を発揮していることも確認できましたし、トランスポンダ(X-TRP)は超高安定発振器(USO)から十分に安定な信号を生成できて電波観測実験に十分なことも証明されました。なお、今は固体増幅器(SSPA)を使っていて、TWTAはずっと遅く金星到着直前に試験予定です。7月から8月にかけてX-TRPと地上局の測距装置を結んで、これも「あかつき」が導入した再生型測距方式の評価試験を実施しています。本稿執筆時点で、再生型測距方式は従来型に比べて測距結果の回線条件への依存性が少なく、遠距離においても劣化のない安定な測距性能を確認できました。

 これら「あかつき」の通信技術の方向性の確かなことは、それらが早くも続くプロジェクトに採用されている事実から読み取ることができます。同時打上げの「IKAROS」をはじめ、水星探査機「BepiColombo MMO」、「はやぶさ2」など、今後10年内に打上げを目指す深宇宙ミッションのすべてが、通信技術においては「あかつき」にならうこととなるでしょう。「あかつき」の旅はまだ緒に就いたばかり、通信技術の試練もしかりです。「あかつき」の技術を信頼する後続のミッションのためにも失敗の許されぬ旅は続きます。

(とだ・ともあき)