宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 金星探査機「あかつき」の挑戦 > 第4回:探査機構体の成り立ち

ISASコラム

第4回:探査機構体の成り立ち

(ISASニュース 2010年7月 No.352掲載)

 金星探査機「あかつき」の構体は、図1に示すように、軌道制御エンジンを搭載する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製のスラストチューブを中心とし、観測機器や太陽電池パドル、アンテナなどを搭載する6枚のアルミハニカムサンドイッチパネルをその周囲に結合した、直方体の構造です。スラストチューブ下端がロケット結合リングとなっていて、探査機とロケットがここで結合・分離されます。構体の大きさは約1.4×1.45×1.0mで、探査機の最終的な重量は517kgでした。

図1 「あかつき」構体の組み立て図
下部構造と推進系の組み付け、主機器搭載パネルの組み付けを行い、両者を組み合わせた後、太陽電池パドルやローゲインアンテナなどを組み付けた。


 「あかつき」の構体開発には、特に大きな問題はないはずでした。「はやぶさ」などの探査機や衛星で実績のある構造設計を踏襲し、搭載機器を保持して打上げ時の振動や加速度に耐えるために必要な強度と剛性を持つように開発すればよかったからです。金星に向かうといっても、適切な熱設計のおかげで構体は特に高温にはなりません。しかし、打上げロケットが当初想定していたM-XロケットからH-IIAロケットに変更されたことに伴って、探査機の搭載方法や振動環境について、いくつか新たな課題が生まれました。

 「あかつき」は、M-V搭載の基本設計を維持したため、通常H-IIAで打ち上げられる大型衛星と比べると非常に小型軽量です。「あかつき」のロケット結合リングの直径は過去の探査機に倣って900mmとしたため、H-IIAの衛星搭載アダプタとして、既存のラインアップになかった直径900mmのPAF-900Mが新規開発されました。PAF-900Mは、下端がH-IIA側の直径約2.2mの支持構造に結合できるよう、高さ約1.1mの円錐台形状の大きなものとなりました。

 また、「あかつき」が軽量であることに起因して、打上げ中の正弦波振動が従来よりも厳しくなることが、ロケット側の解析により明らかになりました。構造モデルの設計がほぼ終了した時点でのことでした。「あかつき」のほかに800kgの質量を搭載して振動を緩和するという検討が始まりましたが、暫定的に「あかつき」の振動条件が厳しめに変更されたため、構体の強度を解析で確認した上で、構造モデル試験ではその条件で振動試験を行いました。

 振動緩和のための800kgの質量は、その後、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」とその搭載アダプタ、PAF-900Mのかさ上げアダプタ、4機の小型衛星になって搭載されました。図2のように、「IKAROS」はPAF-900Mとかさ上げアダプタでつくられる内部の空間に収納されました。振動対策について、H-IIA、「IKAROS」、「あかつき」の三者で(個人的には「あかつき」と「IKAROS」の両方の立場で)何度も協議を重ねた結果、「IKAROS」搭載構造の剛性を調整して動吸振効果を持たせることにより、最終的な「あかつき」の振動条件はほぼ通常通りに収まりました。


図2 「あかつき」の搭載形態
「IKAROS」がかさ上げアダプタ内部に収納され、「あかつき」を載せたPAF-900Mがその上に結合された。ロケットからの分離は、「あかつき」、PAF-900M、「IKAROS」の順である。


 さらに、FM(フライトモデル)総合試験を音響試験設備のない相模原キャンパスで実施するため、従来の科学衛星と同様に音響試験の代替としてランダム振動試験を行う必要がありました。しかし、H-IIAにはランダム振動条件の規定がありません。そこで、構造モデル試験時に音響試験とランダム振動試験の両方を行い、結果を比較しながら合理的なランダム振動条件の決定法を検討しました。その方法を使ってFM振動試験を問題なく実施することができました。

 こうして開発を終えた「あかつき」は種子島に輸送され、打上げオペレーションを迎えました。PAF-900Mとの結合から、フェアリングへ収納され、H-IIAロケット17号機が組み上げられるまでの一連の作業は、とても順調に行われました。打上げは天候の影響で3日遅れとなりましたが、「あかつき」は「IKAROS」とともに無事に金星へ向かう軌道に投入され、その後の運用も特に問題なく進められています。この先、「あかつき」構造系がクローズアップされることはないはずです。

(おくいずみ・のぶかつ)