研究内容(3) 衛星推進系の研究

1. 衛星の化学推進系

衛星搭載の化学推進系は、大きく3種類に分類されます。

  • 推進剤と酸化剤が混じり合い燃焼することで高温の燃焼ガスを発生させ、推力を得る2液式推進系
  • 推進剤を触媒反応させて、発生する高温分解ガスを噴射する1液式推進系
  • 備蓄していた高圧ガスを噴射し推力を得るコールドガスジェット推進系

推進系としての性能は、2液式推進系が最もよく、1液式推進系、コールドガスジェット推進系と続きますが、逆に性能がよい推進系ほど重たくなります。そのため、それほど多くの噴射量を必要としない衛星に2液式推進系を搭載すると、逆に損をすることもあります。推進系の方式の採用は、ミッションごとに、その特性を判断しながら行います。

 

2. セラミックス製の2液推進スラスタの研究

2液推進系の性能向上を目指し、スラスタ材料を、従来の金属製から、より耐熱性の高いセラミックスに置き換える研究を実施しています。スラスタ材料の耐熱性は、2液式推進系の性能を決める大きな要因です。2液推進系のスラスタを燃焼させるにあたっては、推進剤と酸化剤を混合させて燃焼させる他、スラスタの材料が高温になりすぎないよう、推進剤の一部をスラスタ壁面に吹き付けて冷却しています。そのため、スラスタを耐熱性の高いセラミックス製にすることで、冷却にまわす推進剤の量を減らすことができるため、効率が高まると期待されます。
佐藤研究室との共同研究によって得られた研究成果は、現在開発が進められている金星探査機PLANET-Cに活かされつつある一方、より将来のプロジェクトへの提案を目指し、更なる高性能化に取り組んでいます。

セラミックスラスタの外観
燃焼試験中のセラミックスラスタ
応力の数値解析
 
 
PLANET-Cの構造試験モデルに組み込まれたセラミックスラスタ


3. 低毒性1液推進薬の研究

低毒性推進薬として注目されているアンモニウム硝酸塩(HAN ; Hydroxyl ammonium nitrate) 系の推進薬を使用した1液式推進系の研究を行っています。現在までの研究の結果、従来の推進薬であるヒドラジンと比較して、毒性が低いことのみならず、約10%の能力向上を達成しています。本研究は、堀研究室と共同で行っています。

従来の推進薬の取り扱い(内之浦)
 
HAN系推進薬の取り扱い(あきる野)

 

 

4. プロジェクトへの貢献

当研究室および前身の上杉研究室は、国内で開発された科学衛星のほぼ全ての推進系開発を担当してきました。現在進行中の科学衛星プロジェクトにも積極的に関与しており、引き続き、推進系開発を通して、各科学衛星プロジェクトに貢献します。

 

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