IKAROSチームの森 治(もり おさむ)です.

いつもIKAROSを応援していただき,大変ありがとうございます.IKAROSのチームリーダとして,ここまで順調に運用でき,ほっとしています.(セイル展開に失敗していたらと思うと今でもぞっとします・・)

イカロス君の無茶ブリ&催促にこたえて,自己紹介を書きたいと思います.(予想外の展開にびっくりしました・・)

私が惑星探査に興味を持つことになったのは,高校に入ったばかりのころです.NASAの探査機「ボイジャー」が,海王星を通過し,あとは太陽系の外に向かって飛んでいくということで,節目となるパーティをやっているのをテレビで見ました.この番組で,太陽系の惑星を次々に探査する壮大な計画を知り,いつか自分もこのようなプロジェクトに関わりたいと思ったのが,今の自分につながっていると実感しています.

ソーラー電力セイルはまさに遠くの天体に行くための探査機です.遠くの天体に行く場合,電力と燃料が大きな問題になります.巨大なセイルに貼り付けた薄膜太陽電池で大電力を得て,ソーラーセイルとイオンエンジンのハイブリッド推進で外惑星を探査するという方法は,ボイジャーとは一味違った日本流の惑星探査であり,太陽系大航海時代を先導できると信じています.

2001年にこのソーラー電力セイルの計画検討を開始したときは,私は大学から参加していました.そして,2003年のJAXA発足時に大学から異動し,この計画に専念できるようになりました.本当に本当に幸運だと思います.

私は,動力学・制御を専門とし,主にセイルの展開実験・解析を担当しています.セイルの展開挙動は,非常に複雑ですので,実際に展開実験を行い,これを解析モデルに反映していきます.小さな真空層で手のひらサイズのセイルを広げることから始まり,だんだんセイルを大きくしていき,大気球や観測ロケットを使った実験に至りました.スケートリンクの上でカーリングのストーンを先端マスにして実験したこともあります.超薄膜のセイルを広げるのは難しく,うまくいかないことも多いのですが,たくさんの仲間・学生と力を合わせてやる実験はとても楽しいです.

IKAROSのセイル展開は,これまでの一連の実験を受け,ソーラー電力セイルへつながる最後のかけ橋になると言えます.正確な解析モデルを完成するためには,どうしても重力や空気抵抗のない環境で実際に大型のセイルを展開する必要がありました.IKAROSの各種展開データを用いることで,超大型のソーラー電力セイルが設計可能となります.分離カメラでIKAROSを撮影したのは,世界に衝撃を与えるためだけではないのです.

最近,2歳の子供が「パパとイカロス君,がんばれー!」と応援してくれます.まったく予想していませんでしたが,はやぶさ君との相乗効果もあり,たくさんの人がイカロス君に興味を持ってくれて,うれしい限りです.IKAROSのミッションはセイル展開以外にも世界初が目白押しです.皆さんと一緒に思う存分,イカロス君の冒険を楽しみたいと思います.

冒頭のボイジャーのパーティで研究者の一人が,「自分にとって子供のようなボイジャーが,巣立っていって少しさみしい・・」と言っていたのが印象的でした.我らがイカロス君も順調に旅を続けていけば,いつか巣立っていくことになるでしょう.IKAROSの成果をしっかりと引き出し,これを踏まえて,近い将来,ソーラー電力セイル探査機を作りあげることが私の目標です.