PLAINセンターニュース第169号
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「かぐや (SELENE)」解析系の概要

星野 宏和
SELENE プロジェクトチーム

1. はじめに

 2007年 9月 14日に種子島宇宙センターから打上げられた月周回衛星「かぐや (SELENE)」は、太陽電池パドルやハイゲインアンテナを展開した後、数回の軌道制御を経て、10月 4日に月周回軌道に投入された。その後、遠月点高度を下げ、途中「おきな(リレー衛星)」「おうな (VRAD 衛星)」を分離して、10月19日に観測軌道 (高度約 100 km) での月心指向の3軸軌道制御モードに移行することによりクリティカルフェーズが終了した。観測機器 (LMAG マスト、LRS アンテナ、UPI ジンバル) の展開も完了して、現在、主に観測機器の初期機能確認を実施中である。この間、ハイビジョンカメラ (HDTV (High Definition Television)) による地球、月面撮影を実施しており、プレスリリースされている (http://www.jaxa.jp/projects/sat/selene/press_j.html)。

 このように、「かぐや」の初期機能確認のためのデータ取得、処理、解析は始まったばかりであり、これらの確認が終了する 12 月中旬以降は、予定されている約10ヶ月間のノミナルミッション期間で本格的にデータ取得が行われ、順次、データ処理、解析が進められる。データ伝送や処理を行う地上系システムは、従来の ISAS での方式を SELENE でも適用している箇所と新規に整備した箇所があるため、本稿では従来方式との対比も行いながら、主にデータ処理に関する解析系の概要を紹介する。

2. SELENE 解析系の概要

 「かぐや」では、10 [Mbps] でダウンリンクされる X 帯ミッションデータを臼田局 (内之浦局 (34m) はバックアップ) で受信するとともに、S 帯テレメトリ (40[kbps])・コマンド運用は、上記局の他、新 GN 局も使用する。なお、クリティカルフェーズ中は NASA/DSN 局も使用した。

 「かぐや」の運用は、D 棟 4階にあるSELENE ミッション運用・解析センター (SELENE Operation and Analyses Center (SOAC)) で行われる。SOAC には追跡管制システム、ミッション運用・解析システムが整備されており、テレメトリ・コマンド運用は全て SOAC で実施するとともに、各局で受信したデータは全て SOAC に伝送される。なお、軌道力学系システムでの軌道決定等は筑波 TACC で行われる。「かぐや」地上系システムの概要を図1 に示す。


図1. 「かぐや」地上系システム概要

 このうち、ミッション運用・解析システムは、ミッション運用システム、レベル 0/1 処理システム、L2DB・公開系システムと研究者用のセンター内ユーザシステム (研究者用 WS、LISM処理システム)および初画像 (First light) 作成や一般公開向けのデータの可視化、可聴化を行う可視化処理システムで構成される。SOAC 外の各研究機関の研究者は、SINET 3 等を経由して研究者用 WS やデータ蓄積装置、ISACS-PLN にアクセスして、必要なデータ授受を行う。

 ミッション運用システムのうち、テレメトリのモニタについては、従来の科学衛星と同様、SDTP (Spacecraft Data Transfer Protocol) によるリアル伝送、オフライン(レートバッファ)伝送でデータを取得して行う。また、観測計画立案に必要な軌道データ等を元に主に SOAC 外の各研究機関で作成される各観測機器の運用リクエストファイルは、ISACS-PLN に登録した後、コマンド計画を作成するという従来方式を採用している。

 以下はデータ処理に関する解析系についてであるが、5411、5413 室合わせて約 70 台の計算機で構成される。レベル 0/1 処理システムは、研究者のデータ処理用のデータ提供を目的として新規に整備しており、衛星からの生データを恒久蓄積するとともに、軌道力学系から週 2回ペースで更新される軌道データや追跡データの受信と所定のマージ処理、S 帯/ X 帯データのそれぞれ VCID 単位のフレーム分解 (レベル0 処理)、APID 単位のパケット分解や S 帯テレメトリデータについては工学値変換処理 (レベル1 処理) を行い、バス機器/観測機器 HK ファイルや姿勢情報ファイル、TI-UT 変換のための衛星時刻校正データファイル等の情報ファイルを作成する。また、各情報ファイルから SPICE カーネル (SPK、CK、SCLK) を作成するための変換ソフトウェアも準備している。各観測機器チーム宛には、パス終了後にセンター内ユーザシステム宛に処理完了通知メールを送付して、メール & FTP 方式によりデータを提供する方式にしている。また、メールによるデータ検索も可能である。メール & FTP 方式は SELENE 解析系で共通化しており、Perl で記述されたセンター内ユーザシステム用ソフトウェアとしてサンプルプログラムを準備して、ユーザの利便性向上を図っている。

 各研究機関で高次処理した校正済みのデータは、L2 プロダクトとしてセンター内ユーザシステムからメール & FTP 方式で L2DB サブシステムに登録、保存される。ノミナルミッション期間中は、L2DB サブシステムに約 30[TB]の L2 プロダクトが蓄積される予定であり、そのうち、LISM データはデータ量の大半を占める。L2 プロダクトは、データと PDS (Planetary Data System) フォーマット相当のメタデータを含むラベル、L2DB・公開系システム管理用のカタログ情報ファイルの他、画像データについてはサムネイル画像を tar 圧縮したファイルであり、データ量が大きい LISM プロダクトについては最新版のみの管理になるが、他のプロダクトについては 2世代まで管理することができる。L2DB・公開系システムは、SELENE 用に新規に整備したものであり、SIRIUS との互換性はないが、L2DB サブシステム(データ保存・管理設備、媒体提供設備)と公開系サブシステム(データ公開設備)から構成され、保存されたプロダクトの SELENE プロジェクトチーム内での相互参照や PDS 格納形式に準拠した媒体作成を可能にするとともに、各観測機器の公開用データや SPICE カーネルを、ノミナルミッション終了 1年後からを予定している一般公開以降、SOAC 内の WWW サーバ装置、FTP サーバ装置を経由してオンラインで注文、提供することできる。画像データについては、データの切り出しや地図投影法の変換処理も可能になっている。公開系 Web ページでは、観測機器/処理レベル/プロダクト種、観測日時、緯経度、バージョンなどの条件検索を用いて取得するデータが選択できる。公開系サブシステムでのデータ取得時の条件設定画面の例を図 2、3 に示す。


図2. 「かぐや」公開系 Web ページでのプロダクト検索画面


図3. 「かぐや」公開系 Web ページでの観測範囲選択画面

3. 結び

 「かぐや」の初期機能確認の一環としてのデータ取得は始まったばかりである。今後、各観測機器の研究機関でデータ処理、解析が行われ、ノミナルミッション終了 1年後からは、SOAC 公開系サブシステムからデータ公開が予定されている。 

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