PLAINセンターニュース第156号
Page 2

衛星異常監視・診断システム (ISACS-DOC)

高木 亮治、本田 秀之、長木 明成
PLAIN センター


 旧宇宙研の時代から科学衛星の定常運用時の異常監視・診断を行う地上システムとして ISACS-DOC (Intelligent SAtellite Control Software-DOCtor)と呼ばれるシステムの研究・開発を行ってきました。このシステムは衛星および探査機運用の安全性向上を図るため、専門家が常駐できない定常運用時に、衛星・探査機の重大な変化や異常の兆候を想定できる範囲でより確実かつ迅速に捉える事を目的とした地上支援システムです。ISACS-DOC は1992 年に打ち上げられた磁気圏観測衛星「GOETAIL」に初めて採用され、その後、火星探査機「のぞみ」、小惑星探査機「はやぶさ」に適用され改良が施されてきました。更にこれらの成果を発展させ、赤外線天文衛星「あかり」向け ISACS-DOC の開発を行い、現在実運用における本システムの有効性の評価を行っています。

 これまでに開発・運用を行ってきたシステムは全て深宇宙探査機を対象としたシステムでしたが、「あかり」は低軌道地球周回衛星であり、地球周回衛星への異常監視・診断システムの適用は今回が始めての試みとなりました。地球周回衛星に対応する上で最も大きな違いは、大量のデータをほぼリアルタイムに監視・診断する事が必要となることです。地球周回衛星では深宇宙探査機と比較して可視時間が短く(例えば、「はやぶさ」では可視時間は 8時間程度なのに比べて「あかり」では 10分程度)、テレメトリデータの転送速度が早い(「はやぶさ」では 16Kbps に対して「あかり」では 4Mbps) ため、これまでのシステムと比べて大量のデータを高速に処理することが必要になりました。そのためデータ処理方式を見直し、地球周回衛星の高速かつ大量データに対応可能なシステムを開発しました。今回地球周回衛星への対応を行うことで ISAS/JAXA が扱う科学衛星のみではなく、広く JAXA 全体が取り扱う各種衛星への適用が考えられるようになりました。

 図1に異常監視・診断システム ISACS-DOC の概要と運用イメージを示しています。


図1: 異常監視・診断システムの概要と運用イメージ

今回開発したシステムは

  • 診断知識に基づきテレメトリデータを自動的に監視するので無人運用による監視が可能
  • リアルタイムおよびリプロデータを同時に処理す ることが可能
  • Web インターフェイスの利用により、監視・診断結果は Web ブラウザーに表示される。そのため専用クライアントソフトウェアが不要。またネットワーク経由で好きな場所で運用結果を確認することが可能(実際には NW セキュリティの問題が絡んできますが)
  • 診断結果を電子メイルで通知できるので、何時でもどこでも運用結果の確認が可能

といった特徴を持っています。

 「あかり」対応の ISACS-DOC では、監視・診断に必要となる知識ベースをより効率良く収集するためのフレームワークの開発を試みました。これまでのシステムで利用された知識を整理し、共通的に利用可能な知識を用いてテンプレートを作成しました。このテンプレートを用いることで収集した知識の可読性、移植性を改善する事ができました。と同時に自動的にシステムに取り組むことが可能となりました。従来は収集した知識を、それぞれプログラミング等を通じてシステムに組み込んでいましたが、本システムではテンプレートに記述するだけで、自動的にシステムに取り込まれ運用されることが可能となりました。更に知識ベース構築支援機能の開発も行いました。知識入力を効率良く行うため、テレメトリ定義情報(SIB)の自動取り込み機能や、入力された知識の形式や整合性のチェック機能を開発しました。形式チェックとして、必須項目、固定文字、文字種/文字数のチェック、整合性チェックとして知識項目の重複、リミット値の大小、データ/項目の収集周期と収集期間の妥当性、監視などの条件式の整合性、監視条件と監視に必要な入力データの整合性などの確認を自動的に行います。これらの機能をより充実させることで、知識ベースの構築をより効率良く行うことができるようになると考えています。

 現在「あかり」対応 ISACS-DOC は実際の衛星運用に適用されています。実運用での評価を通じてより良いシステムになるよう引き続き改良を続けていきます。

 △▲このページの先頭へ



情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか?(2) へ

平成18年度スーパーコンピュータ共同利用追加公募採択結果 へ


(1.1Mb/4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME