PLAINセンターニュース第156号
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情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか?(第2回)

村田 健史
愛媛大学総合情報メディアセンター
宇宙科学情報解析センター客員

前号 から続く)

 2.3 3D Web
 2.4 バーチャルリアリティー (VR) システム
 2.5 ボリュームコミュニケーション
 2.6 MPEG7 による e-Learning 系マルチメディアコンテンツ
3. 科学衛星地上観測データ解析参照システム(STARS)
 3.1 STARSについて


2.3 3D Web

 3D コンテンツビューアで、Web 上で閲覧できるものは現在のところそれほど多くない。VRML を閲覧できるコスモプレーヤーが有名であるが、VRML が XML ベース、すなわちアスキーフォーマットデータであるため 3D コンテンツを記述するには負荷が大きく、そのために期待されたほど普及していない。

 一方、上記のとおり、3D AVS Player はビューアが ActiveX コンポーネントとして提供されているため、Web ブラウザでの利用が可能である。筆者は、愛媛大学医学研究科・木村らと共同で、KGT 社との協力により Web 版 3D AVS Player を開発した。(3D AVS Player 2.0/2.1 として、KGT 社よりリリースされている。)Web 版 3D AVS Player の応用例として、現在、情報通信研究機構のリアルタイム Global MHD simulation を準リアルタイムで 3D コンテンツとして Web 状で公開する実験を始めている(図5)。


図5 情報通信研究機構 (NICT):3D Global MHD simulation 準リアルタイム Web ページ
(正式公開は近日中の予定)

2.4 バーチャルリアリティー (VR) システム

 3D シミュレーションを理解する有効な方法として、バーチャルリアリティーの活用がある。3次元可視化は 3次元シミュレーションデータを理解するためには必須である。しかし、地球磁気圏尾部などで動的に複雑に変化する磁力線構造を理解する場合などは、磁力線を可視化するだけでは構造を理解することは難しい。このような場合には、視覚型 VR システムを利用することにより、構造理解の支援を行う。図1、図2および表1(前号に記載)に示すように、Cyber Media Space には 120インチのディスプレーと 2台のプロジェクタを有しており、Personal VR システムとして利用することができる。3D AVS Player 2.1 は、フル画面表示によって GFA ファイルをステレオ立体視できるため、没入感の高い視覚型 VR 表示を行うことができる。


図6 Haptic デバイス Phantom

 視覚型とは別の有効な VR の活用として、触覚型 VR システムの利用が挙げられる。筆者は、愛媛大学理工学研究科の山本・松岡との協力により、AVS/Express 用の Haptic Device(図6)の制御モジュールを開発した。このモジュールを使うことで、3D パラメータを力覚に置き換えたデータ解析が可能となる。現在、このモジュールを活用した Global MHD シミュレーションデータ解析環境を開発中である。

2.5 ボリュームコミュニケーション

 3D AVS Player は無償のプレビューアであるが、AVS/Express は市販商品である。また、AVS/Express はモジュールの組み合わせで 3次元可視化を実現するため、比較的容易に可視化環境を実現できるが、複雑な可視化処理を行う場合にはモジュールネットワークも複雑になる。誰もがモジュールネットワークを容易に作ることができるわけではない。特に、可視化されたデータのプレビューのみを行いたいユーザにとっては、すでに作成された GFA ファイルを閲覧するだけでよい場合も多い。


図7: ボリュームコミュニケーションのイメージ

 そこで、筆者らのグループ(愛媛大学医学研究科・木村や愛媛大学理工学研究科・岩元ら)では、3D AVS Player を元に遠隔地間でボリュームコミュニケーションを行うシステムを開発している(図7)。このシステムでは、VPNによりユーザがプライベートネットワークに用意されたVENUEに参加する。VENUE 内では、すべてのユーザが同じ GFA ファイルを取得する。取得した GFA ファイルの視点情報と時刻情報は、マルチキャスト通信によって VENUE に参加しているすべてのユーザに同期配信される。

 データ共有時にはすべてのユーザがデータを取得するまでの時間がかかるが、プレビューにおいてはパラメータのみを通信するために、ネットワークの広帯域を必要としない利点がある。また、マルチキャスト通信を用いているため、システムの通信部が比較的シンプルなデザインでの実装が可能である。現在、このシステムは、KGT 社の協力により実装を進めている。

 なお、このシステムは 3D AVS Player を視覚型 VR システムとして利用する際には、リモートコントローラとしても利用が可能である。3D AVS Player が動作する計算機のネットワーク内に VENUE を構築し、コントロールする計算機をこの VENUE に参加させる。これにより、VR システム上の GFA コンテンツの視点移動や時間ステップの更新は、コントロール計算機から制御することができる。

2.6 MPEG7 による e-Learning 系マルチメディアコンテンツ

 上記のボリュームコミュニケーションツールでは、視点および時間ステップパラメータを用いて、多地点間での 3次元可視化環境の共有を実現した。時々刻々と変化するこれらのパラメータおよびデータファイル名を保存することで、コミュニケーション結果をジャーナルファイルとして保存することが可能である。

 本研究では、このジャーナルファイルを MPEG-7 形式で保存することとした。MPEG-7 は、本来は動画像にメタ情報を付加するために設計された規格であるが、MPEG-7 のジャーナル機能を活用して e-Learning 系コンテンツを作成することができる。たとえば、RICOH 社の MP-Meister などがこの機能を有するアプリケーションである。MP-Meister により、Microsoft 社の PowerPoint と動画像を連携することで、e-Learning 系のコンテンツを作成することができる。

 本研究では、PowerPoint の代わりに、上記の GFA ファイルと視点および時間ステップパラメータによる 3D コンテンツのプレビューを行う。すなわち、解説用のビデオ画像と 3D コンテンツのプレビューを同時に再生するコンテンツの作成を行う。現在、筆者らのグループでは、MPEG-7 ジャーナルファイルの保存を行うアプリケーションの開発を行っている。また、動画像と 3D コンテンツのプレビューア(図8)は、KGT 社との共同開発により実装する計画である。

 

図8 STARS 最新版プロットダイアログ

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3. 科学衛星地上観測データ解析参照システム(STARS)

3.1 STARSについて

 科学衛星観測は、宇宙科学研究本部の重要な役割のひとつである。1.で述べたように、宇宙科学研究本部では、科学探査のための技術開発やデータ解析が精力的に行われてきた。しかし、解析後に蓄積された観測データをどのように利活用するかについての議論は軽視されてきたように思われる。貴重な蓄積データを利活用するためには、何が必要であろうか?

 本節では、この疑問に答えるため、筆者が約 10年にわたり開発を進めてきたシステムである、“科学衛星地上観測データ解析参照システム”(通称STARS:Solar-Terrestrial data Analysis and Reference System)を紹介したい。このシステムは、かつて筆者が、自分自身がデータ解析を行う中で感じた様々な問題点を解決するために開発を始めたものである。図9は、最新の STARS のダイアログのひとつである。

 

 STARS がどのようなシステムであるかを一言で説明するのは簡単ではないが、様々なデータを様々なデータサイトから取得して、シームレスに(つまり、どのデータがどこから取得したかを利用者が意識することなく)ダウンロードし、さらに、ファイルの I/O(つまり、ファイルオープンや読み出し)を意識することなくプロットし、解析することを目標としている。

 しかし、多くの読者にとって、「ある特定のシステムについての紹介」は退屈なものと感じるであろう。確かに、他人の作ったシステムの話を聞いても面白くない。そこで、本稿では、議論の中心を、このシステムがどのようなもの(What)であるかではなく、なぜこのシステムなのか(Why)を中心に進めていこうと思う。実は、STARS に実装されてきた機能の多くは、筆者が実装したいと考えた機能ではない。STARS を開発する過程において、多くの研究者に利用されるシステムとして必要な要件を満たすために、必然的に実装された機能ばかりなのである。STARS の機能は、「実装されるべくして実装された機能」からなっている。すなわち、STARS 開発の歴史は、そのまま科学衛星観測データ公開に必要とされる機能の歴史なのである。本稿では、特にその点を意識して、技術的な議論については省略し、なぜその機能を実装したか、その機能により何が実現されたのかについて、STARS の歴史を追ってみたい。

次号 に続く)

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衛星異常監視・診断システム(ISACS-DOC)


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